新島・式根島で芋といえば、あめりか芋(品種名:七福(しちふく)を指します。現在この芋の産地は限られ、特産と呼べるのは、あめりか芋と呼ぶ新島・式根島と七福と呼ぶ愛媛県新居浜となっています。明治時代から島民の食を支えてきた、希少なあめりか芋の基本知識や式根島における歴史的背景と食文化について解説します。

新島・式根島特産の「あめりか芋(七福)」基本知識
名前の由来
一度聞いたら忘れられないユニークな名前あめりか芋。こちらは通称で、正式な品種名は何ともおめでたい感じがする七福(しちふく)です。それぞれの名前の由来を見てみましょう。
正式品種名「七福」の由来
1.性質の特徴
- 風土を選ばない
- 作りやすい
- 貯蔵性が良い
- 食味が良い
2.日本に入ってきた伝播経路
- イタリア
↓ - アメリカ
↓ - 日本
この4つの性質の特徴と3カ国に渡った伝播経路の4と3を足して7つの福がある「七福」と命名されたそうです。
通称「あめりか芋」の由来
この品種は元々イタリアで栽培されていたものが、1830年代にアメリカ合衆国へ伝播しました。さらに1900年(明治33年)頃、広島県出身の久保田勇次郎氏によってアメリカから日本に導入されました。その歴史的経緯から、新島・式根島ではあめりか芋という名前が定着しました。
あめりか芋の性質

あめりか芋は、一般的なサツマイモとは異なる独特の性質を持っています。
- 皮が白っぽく、丸みを帯びた形状
- 乾燥地・砂地でよく育つ
- 長期保存がきく
- 蜜芋で収穫直後は粉質(ホクホク系)だが、貯蔵することで糖度が増し、粘質(ねっとり系)に変化する
- 一般の市場にはほとんど出回らない
式根島で畑を持っている島民の多くは、このアメリカ芋を作り、秋の収穫を楽しみにしています。
あめりか芋の栄養
一般的なさつまいもとの違いは、ナトリウムが多く含まれていること。普通のサツマイモのナトリウム含量が4 mg/100 gであるのに対し、東京都健康安全研究センターの分析では、あめりか芋は110 mg/100 gの高値がでました。品種特有かは不明ながら、海が近い島の土壌環境由来ではと推測されています。
100gあたり
| エネルギー(kcal) | 128 |
| 水分 | 67.0 |
| たんぱく質(g) | 1.2 |
| 脂質(g) | Tr |
| 炭水化物(g) | 30.9 |
| 灰分(g) | 0.9 |
| ナトリウム(mg) | 110 |
| ビタミンC(mg) | 29 |
東京都島しょ地域特産食品の栄養成分値/東京都健康安全研究センター研究年報 第59号 別刷(2008)
式根島とアメリカ芋の歴史
あめりか芋栽培のはじまり
それまで無人島だった式根島は、1889年(明治22年)に新島から4世帯が移住して開島しました。あめりか芋こと七福が日本に到来したのが1900年(明治33年)。あめりか芋は、大正時代か昭和の初めには新島村で栽培が始まっていたのではないかとのことですので、新島村に属し、なにかと往来がある式根島も、時期を同じくして栽培が始まったのではないかと推測します。
式根島島民の命をつないだあめりか芋
水分や肥料分を蓄える力が弱い火山灰質の砂質土に覆われた新島・式根島は米が出来ず、主食は芋と麦でした。あめりか芋が定着した理由は、さつまいもの中でも特にやせ地に強く、よく育ったからです。
また、冬期の強い西風で海が荒れ、外部から食料が入りにくい時期でも、貯蔵性が高いあめりか芋が島民の食を支えてきました。式根島の各家は、縁の下や廊下の床下に「芋穴」と呼ばれる貯蔵用の穴を設け、麦がとれる5月頃まで芋を主食にして食いつなぎました。
式根島で東海汽船が運ぶ白米が主食になったのは、戦後1950年~頃のことでした。
あめりか芋の栽培方法の歴史と現在
作付けは、初期は平畝(ひらうね)で作りましたが収量が少ないのが悩みのタネでした。しかし、昭和8年に高畝(たかうね)で好結果が出たことから、一気に高畝が普及し、現在に至るまで基本的な作付け方式となっています。肥料は、海岸に打ち上げられた海草(モク)を畑の畝の下に施しました。
現在、式根島に専業農家はいませんが、芋といえば、あめりか芋を指し、畑を持っている島民のほとんどが育て、秋の楽しみとしています。一部は島内商店にも出回ります。
そのほか、新島・式根島の特産品として価値が高く、焼酎やスイーツなどの原材料にするためにも栽培されています。


あめりか芋の食べ方
1.昔の食べ方(加工品・主食・おやつ)
あめりか芋が主食の1つだったころの食べ方をご紹介します。あめりか芋を少しも無駄にしないよう、さまざまな工夫をしていたことがわかります。
加工品
- 干飯(ほしい)
芋の皮をむいて煮てから、肉すり機でミンチにし、エンガと呼ばれる竹であんで木枠をつけたものに広げて干す。強い西ん風に2~3回晒し、カリカリに乾かす。正月に芋餅の材料として作る - 切り干し
生芋の皮をむいて細切りにし、干し上げる(コーロ煮の材料) - 煮っ切り干し
芋を煮てから皮をとり、輪切りにして、干し上げる(そのまま食べる) - 芋粉(いもこ)
クズ芋を粉にする
主食
- 芋飯(いもめし)
かつて米が貴重だった頃、サツマイモを細かくして米と一緒に炊き込み、量を増やすために作られた一種のかて飯 - 芋粥
さらに米が貴重だった頃、サツマイモを細かくして米と一緒に薄い粥にし、量を増やすために作られた - コーロ煮
生芋を皮をむいて細切りにし、乾燥したもの(切り干し)を煮て、すりこぎでつぶし、ささげなどを入れ、きんとん状にして食べる - 芋餅(いももち):
蒸したり茹でたりした芋を潰して乾燥した干飯(ほしい)を、もち米とついてつくる正月の風物詩。早春の摘み草・よもぎを入れることも多い


おやつ
- 芋あめ
芋を煮詰めた汁を更に煮詰め飴玉を作る - くずだんご
芋を蒸かして皮をむいて、すりこぎでつぶし、芋粉をまぜ、磯海苔などをいれて丸くし、油であげて食べる
または、同じものにあんこを入れて、ダンゴッパで包んで蒸かして食べる - 芋かりんとう
皮ごと細切りにして油で揚げて砂糖をまぶす
2.現在の食べ方
- 蒸かし芋・茹で芋・焼き芋
最も手軽に、本来の甘さと食感を楽しめる。貯蔵期間に応じて変化する肉質(粉質から粘質へ)を味わうのに最適 - 天ぷら
輪切りや拍子木切りにして衣をつけて揚げる - お菓子の材料に
甘みをいかして蒸しパンやパウンドケーキに

3.商品活用
- 芋焼酎「地鉈」
式根島のおくやま商店と八丈島酒造が協働して製造する、式根島のあめりか芋のみで醸造した焼酎 - 芋焼酎「七福嶋自慢」
新島唯一の酒造所である株式会社宮原(旧新島酒造)が製造する、あめりか芋が主原料の芋焼酎 - 式根島クラフトビール「あめりか芋」
原材料にあめりか芋を使った式根島島内だけで買えるオリジナルクラフトビール - あめりか芋パウンドケーキ
希少な式根島産あめりか芋をペーストにし、生地にも中にも練り込む。さらに、式根島産あめりか芋100%を使用して3年熟成させた上品な味わいの本格焼酎「地鉈」をたっぷりと染み込ませている - あめりか芋クリーム くりい~も
希少な式根島産あめりか芋をペースト。お芋本来の素朴な甘みとしっとりなめらか食感もしっかりと味わえる

最後に:あめりか芋を味わってみよう
式根島に暮らす島民にとって、なくてはならない重要食料あめりか芋。
10月~11月の収穫時期に式根島に来れば、島内の商店で見かけることができるかもしれません。その際は、ぜひお土産にして、2週間~1ヶ月程度、洗わずに新聞紙等で包んで、段ボールに入れて常温で貯蔵してみてください。島民がこよなく愛する蜜芋のおいしさを体験できるかもしれません。
あめりか芋を使った焼酎やクラフトビール、加工品は年間を通してお買い求めいただけますので、こちらもよろしくお願いいたします!※欠品時はすみません。
参考資料
東京産業労働局「TOKYOイチオシナビ」地域資源「アメリカ芋、ムラサキ芋」
一般財団法人いも類振興会「アメリカいもで島おこし―東京都新島の事例―新島村ふれあい農園 小林 恭介」
新島村WEBサイト「東京都新島村特産あめりか芋」あめりか芋の歴史
式根島開島百年史
