下り便(神津島行き)

東京発神津島行、下りのさるびあ丸が新島に近づき、着岸を知らせる汽笛を鳴らす頃、トップデッキに出てみましょう。新島から、艷やかな漆黒のカラスが一羽、飛来し、乗船するかもしれません。困ったことに無賃乗船です。

カラスは、慣れた様子で6階デッキに移動し、昨晩、出航の宴に酔いしれた乗客が落としたであろう食べ物クズを忙しなくついばんで回ります。

やがて、新島に着岸した、さるびあ丸は乗客と荷物を下ろし、そして新たな乗客と荷物を乗せ、式根島に向けて出航しました。カラスはデッキの手摺りにとまって海原を見つめまています。その眼差しは何を想うのでしょう。やがて、数百mほど、島から離れると、カラスは新島目指して、翼を広げるのでした。

上り便(東京行き)

神津島で清掃を終え、きれいになったさるびあ丸は、心機一転、東京へ向けて折り返します。最初の寄港地は式根島です。式根島で乗船した方は、荷物を置いてトップデッキに向かいましょう。新島は隣ですから、急がないと、すぐ着岸してしまいます。まもなく、一羽のカラスがまっすぐに飛んできて、さるびあ丸に乗船します。またまた無賃乗船常習犯の登場です。

酔客のいない上り便のさるびあ丸には、食べ物クズが落ちていないことをわかっているのでしょうか?下り便と違って、餌探しもせずに、悠々と海を眺めています。そして新島が少し遠くなった頃・・

カラスは飛び立って、新島に帰りました。ネットの情報をたどれば、2020年頃から、新島で3代目さるびあ丸に乗り込むカラスの目撃話が確認できます。おそらく同じ個体と推測されますが、よほど気に入った様子です。

ちなみに、新島・式根島のカラスは、ハシブトカラスです。
当地のカラスのご先祖は、江戸幕府の第5代将軍・徳川綱吉の頭上に糞を落とした罪で裁かれ、「生類憐みの令」をもって、寛大なる島流しとなった歴史があります。すなわち、一般庶民より、由緒久しきカラスということになります。なお、罪を犯したご先祖のカラスは、侍二人の付き添いのもと、特別な籠に入れられ、はるばる船で運ばれました。そして、新島に到着後、人間の罪人と同じように解き放したところ、江戸の方へ向かって飛び去ったと、新島名主・前田家文書に残されています。

話を戻して、カラスが去った地点の新島とさるびあ丸の距離感はこれくらいです。カラスに逢いたい方は、ご参考ください。

ハシブトカラスの寿命は諸説ありますが、10年から20年だそうです。