昨年末の餅つきの時に、式根島在住で最長老のバァが「昔は、芋餅も一緒に作ったの。たっぷり芋を入れて、よもぎも入れて、美味しいものだった。」と教えてくれました。味の想像ができず、どうしても食べたくなって、バァにお願いしたところ、昔ながらの芋餅づくりを再現してくれることになりました。

式根島の正月の味「芋餅」とは

米がとれない式根島にとって芋餅は、少しでも餅の量を増やすための工夫でした。
火山由来の水が抜けやすい砂質の式根島でよく育つ作物は限られています。その中で、とりわけやせ地に強い性質をもつさつま芋の「あめりか芋(正式品種名 七福)」が、主食として島民の食を支えてきました。あめりか芋は採りたてはホクホク、貯蔵するとしっとりして甘みが強くなる蜜芋の性質を持ち、秋に収穫した芋が美味しくなるころ、年末の餅つきの時期が到来します。

といっても、あめりか芋そのままの形で餅に入れるわけではありません。冬の式根島に吹きすさぶ強い偏西風「西ん風」を利用する風土に根差したとっておきの作り方があるのです。

なお、式根島でといったら、このあめりか芋のことですので、この記事でも、以降はで統一いたします。

掘りたての「あめりか芋」

餅の量を増やすために考えられた芋餅も、その甘味と春の香りが一体となった美味しさを懐かしく思う島民は多く、現在も、年末になると、一部の島内商店では生の芋餅を販売しています。

芋餅の作り方

それでは、大変な手間暇がかかる芋餅の実際の作り方を見ていきましょう。年末30日の恒例・餅つきの最後に、この芋餅をつきますので、逆算して間に合うように準備していきます。

干飯を作る

10月に掘って貯蔵していた芋が追熟で甘みを増した12月頃。式根島には風速15m以上の西ん風(ニシンカゼ・ニシ・西のテッパツ)が断続的に吹き続けます。この冷たい強風を利用して、芋を干して作る加工食・干飯(ほしい)を作ります。

【干飯の作り方】

  1. 芋を蒸かすか茹でて皮を剥く
  2. 芋を肉すり器でミンチにし、小分けする
  3. 小分けにした芋をエンガ(島特有の竹で編んだものに木枠のついた干し台)に並べ、直射日光があたる屋外で2週間かけてカラカラに干す。カラス除けの網をかけておく。雨に当てない。
  4. 触っても崩れないほど、カチカチになったら出来上がり。

コラム「肉すり機」

 
式根島で「肉すり機」と呼ばれているのは肉をミンチにする「ミートチョッパー(ミンサー)」のことです。

高額な調理器具ですが、日本では食の洋風化に伴って、高度成長期に広まりました。この「肉すり機」は、大阪に現存する株式会社ボニー準業務用手廻し式ミンサーNO.22です。同社沿革から推測すると、おそらく1970年代に海を渡って式根島に到来したのでしょう。

材質はマンホールの蓋と同じ鋳鉄で、表面は錫メッキ。半世紀に渡って島の伝統食「たたき」や「ほしい(干芋)」を作り続け、文字通りメッキが剥がれていますが、使うたびに分解して洗えばまだまだ使えます。

民宿を営む家が多い式根島では欠かせない調理器具であり、多くの家々で愛用されていました。

よもぎを用意する

海洋性の温暖な気候に恵まれた暖地・式根島では、よもぎの採取適期は12月~4月となります。

今回はバァのひ孫君がよもぎ摘みを手伝ってくれました。この通り、短時間で白い産毛のついた、いかにも柔らかなよもぎがたくさん採れました。茹でると大幅にカサが減るので、多めに採取するのがポイントです。

よもぎはよく洗って、固い茎や傷んだ葉を切り落として、塩とあく抜き用の重曹を入れた湯で柔らかくなるまで茹でます。茹で上がったら、両手で水気を搾って細かく刻み、おにぎりのように丸めてラップで包み冷蔵庫に入れておきます。※2~3日中に使うようにします。

餅つき当日:干飯を蒸かす

いよいよ30日の餅つきの日を迎えました。先に、白い餅をついて、最後に芋餅をつきます。事前に、すっかりカリカリになった干飯を蒸し器に入れて、やわらかくなるまで蒸かしておきます。

もち米に干飯とよもぎと砂糖を入れてつく

すべての白い餅がつけたので、いよいよ芋餅の番です。

臼に蒸かしたもち米と、たっぷりの干飯、よもぎを入れます。各家庭の味がありますが、バァは芋もよもぎもたっぷり入れる派です。砂糖は数回に分けて、味見をしながら加減を決めるといいでしょう。薄甘いくらいがちょうどいいです。

だいぶ久しぶりの芋餅づくり。

子どもの頃から餅つきをしてきた元・島っこやスポーツに打ち込んできた元気な大学生も、初めての芋餅つきです。
そして、いつものように餅をつきはじめて異変に気付きました。実は、この芋餅は弾力が強く、普通の餅より何倍も餅をつくのが大変なのです。それまで軽快に餅をついていたのが、杵を10回ふるったら交代のはずが、5回で交代になって、入れ替わり立ち替わり、息をはずませてつくようになりました。

「この餅はしんどい~!」

やむを得ずお父様の出番です

芋餅の完成

つきあがった芋餅はきれいな緑色になりました!
固まりきらないうちに切って、丸めておきます。今回は、白いお餅がたくさんあるので、芋餅には自家製のあんこをたっぷり入れました。もちろん、普通のお餅と同じように、何も入れなくてもOKです。作った芋餅はすぐ食べる分以外は冷凍しておくと、ゆっくり楽しめます。

芋餅の実食

トースターで香ばしく焼いて食べてみます。

普通の餅より柔らかく、とろっとします。いわゆる草団子のような風味と芋のコクがあり、焼いたときの香ばしさも増しています。
これは間違いなく美味しいものです!

バァ、ごちそうさまでした!

ひだぶんバァ

手間がかかるけど、干飯はたくさん作って、たっぷり入れたほうが美味しいね。普通のさつまいもでも大丈夫。バァは昔から芋餅が大好物だよ

最後に「式根島で芋餅を食べてみよう」

式根島の芋餅づくりはいかがでしたでしょうか。

これを読んで食べたくなってしまった人に朗報です。
式根島のファミリーストアみやとらでは、通年、あん入りの芋餅の冷凍品を販売しています。店内の冷凍コーナーをぜひのぞいてみてください。

※品切れの場合はすみません。
※1~2時間、常温で解凍して、そのまま食べるか、トースターやフライパンで焼いて食べます。

また、年末にはあんこが入っていない、生の芋もちも販売しています。

式根島の伝統料理は、まだまだありますので、1つ1つ紹介したいと思います!

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