式根よいとこ
三宅をまえに
お湯の加減を
潮がする

富士火山帯に連なる伊豆諸島の島々は1万年以上前の火山活動で誕生しました。なかでも式根島は海岸線や海中の各所に温泉が湧いているのが特徴で、最も有名なのが、地鉈温泉です。
式根島にいらっしゃったら、世界有数の名湯を、ぜひご堪能ください。

式根島が誇る大絶景温泉

地鉈温泉(じなたおんせん)は、式根島南端の断崖にあり、193段の階段を下りて行き着く秘湯中の秘湯です。“地鉈”という名前は、地面を鉈(なた)で割ったような、V字の峡谷地形に由来します。

 1981(昭和56)に暁教育図書出版がまとめた「全国露天風呂番付」露天風呂番付(旅行作家/温泉評論家の野口冬人氏選定)では、東の張出横綱に選ばれ、古くから「内科の湯」として多くの湯治客でにぎわいました。

磯の岩間の底から湧く出湯の泉質は鉄分豊富なナトリウムー塩化物強塩温泉。

源泉温度は約80度とかなりの高温で、湧出時は無色透明の湯が、空気にふれて酸化し、茶褐色の濃いさび色に変化します。

適温の湯壺を探り浸かる温泉

前面は黒潮流れる大海原。海岸線にごつごつと積み重なる岩々が無数の湯壺となっています。この湯壺は、底から80度近い熱泉が湧出しており、そのままでは熱くて入浴ができません。そのため、適度に海水が混ざって適温となっている場所を探り探り、身体を沈めます。

満潮では、多くの海水が流れ込み、適温の湯壺が多くなります。干潮では、海に近い場所でないと熱くて入れません。

潮が満ちてきたら手前、引いてきたら海に近い湯壺へと、人間が潮の満ち引きに合わせて、湯壺を渡り歩くのが、地鉈温泉の入り方です。

※式根島の露天温泉はすべて水着着用がルールです。また閉鎖時や荒天時は入れません。海岸に近づかないようにしましょう。

海と地球と圧倒的な一体感

月を浴びて
星を浴びて

式根島には、日中の疲れを癒すため「よしょにへーいう?」と誘い合って地鉈温泉に行き、夜の湯あみを楽しむ文化があります。

島民たちは、とめどもないおしゃべりをしながら、潮が満ちるにつれ、引くにつれ、次々と上手に湯壺を変えて長湯します。特に、闇夜の天の川、秋の名月は格別です。

ドビュッシー「月光」

病む人、
湯の湧く岩を
じっと抱いて

患いを癒す小島の霊泉

1888(明治21)年まで基本的に無人島だった式根島ですが、傷や病に効く温泉の存在は知られており、江戸時代から許可を得て、近隣の島々から温泉に入りに来る人がいたほどです。

地鉈温泉は、急峻な地形ゆえ、もともとは海からしか辿りつけませんでした。しかし、1909(明治42)年、式根島に泊浦の港の工事で訪れた静岡県の石工3名が、この状況を見かねて、一ヶ月がかりのボランティアで岩石を砕き、細工を施して道を通してくれました。島民はこの功徳に感謝して、地鉈温泉の岸壁に今も残る「彰功誌」を刻みました。

以降、明治、大正、昭和と、霊験あらたかな湯の効能を求め、はるばる湯治に訪れた人は数しれず。老いた親を背負って上り下りした人もいました。そして、式根島を後にする時は、持参の鉄ノミで地鉈温泉の岸壁に、記念の文字を刻み記して帰ったのです。今は、風化が進んでいますが、その名残を当地で見ることができます。

1919(大正8)年に訪れた俳人・萩原井泉水は「病む人 湯の湧く岩を じっと抱いて」と詠みました。

※現在、岸壁を傷つける行為は禁止です
※絵:明治35年刊行・風俗画報 第254号
 「式根島地中暖之湯」佐藤賢一所蔵

地鉈温泉Q&A

Q
水着はどこで着替えたら良いですか
A

地鉈温泉に更衣室はありません。水着を下にあらかじめ着て入浴しましょう。上がり湯は、ペットボトルに水を入れたものを持参し、熱い箇所に沈めておくと、湯上がりに浴びることができます。

Q
お金はかかりますか?
A

式根島の露天温泉はすべて無料です。

Q
干潮や満潮はどこでわかりますか?
A

インターネットで調べられるほか、式根島観光協会の掲示物、公式SNSでご案内しています。
式根島観光協会 各SNS「X」「Facebook」「Instagram

Q
夜も入れますか?
A

入れます。ライトはありますが、足元が悪いので、懐中電灯を持参し、海が穏やかなときに入浴するようにしましょう。晴天の場合、月が出てなければ星がきれいに見えます。逆に、月がちょうど出ているときも美しいので、潮汐だけでなく、月の入り・月の出時刻も調べておくといいかもです。

Q
温泉玉子つくれますか?
A

作れます。手前の湯壺は80度近い熱泉です。30分くらいで出来上がりますので、温泉に入る前に、仕掛けておくといい感じ。

Q
注意することはありますか?
A

とにかく火傷に注意しましょう!湯加減を試そうと、靴のまま触ると、80度近い熱泉がしみ込んで大変なことになります。うっかりして、足をしばらくつけてしまい、皮がべろべろになるような火傷になった人もいます!島の医療は簡易的ですから、くれぐれも注意してください。お子様から目を離さないようにしましょう。

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