磯の香りがたまらない!
厳冬期の年明け。式根島の島民が待ち望んでいる食べ物があります。それは海苔(のり)。この季節、式根島の荒磯には様々な海苔が繁茂していますが、今年は特に出来が良いようです。今回は、式根島の漁師さんの岩海苔摘みに同行してお伝えします。

海苔って何だろう?
その前に「海苔という生き物」についてみていきましょう。
海苔は海藻の一種です。”かいそう”には「海藻」と「海草」があります。
「海草」は海域に生育する植物です。種子で増え、根・茎・葉の区別がはっきりしています。代表的な海藻はアマモです。
「海藻」は胞子で増える藻類です。根・茎・葉の区別がはっきりしません。代表は、海苔や昆布、わかめなど、食卓に並ぶ身近な食材です。


海藻は以下の3つに分類されます。
- 紅藻(アマノリ、フノリ、オゴノリ、トサカノリなど)
- 緑藻(アオノリなどなど)
- 褐藻(こんぶ、わかめ、ひじき、もずくなど)
岩海苔は「紅藻」に属するアマノリ類の総称です。
式根島で食べられる種の特定は難しいのですが、2021年に「ハイタンアマノリ」、2025年に「クロシオアマノリ」が見つかるなど、多様性に恵まれた藻場であることは間違いありません。これらは温暖化に対応した新しい海苔養殖の育種品種として、交雑種も含め、調査研究と検討が続けられています。
2025(R07). 5.21 関東地方の太平洋沿岸で新種のノリを発見、クロシオアマノリと命名~温暖化対策に向けてノリの育種素材として利用~(東京海洋大学学術機関リポジトリ)
2021年に式根島と八丈島で自生が見つかったハイタンアマノリ(一般財団法人 海苔増殖振興会 海苔の豆図鑑)
海苔(アマノリ類)の一生
海苔は一年を通じて、同じ姿で海に存在しているわけではありません。目に見える「葉状体(私たちが食べる海苔)」の時期と、目に見えないほど小さな「糸状体」の時期を交互に繰り返して生きています。これは、海苔にとって過酷な夏の環境を生き抜く、環境適合の結果です。とても不思議な海苔の一生をご覧ください。
1. 葉状体の成長と受精(冬~春)
冬、磯に群生する茶褐色の海藻の姿が葉状体です。 水温が下がる秋から冬にかけて急速に成長し、成熟するとオスは「造精器」、メスは「造卵器」を形成します。海苔は、品種により、雄雌が1つの個体に存在する雌雄同株と、個体が分かれている雌雄異株があります。 いずれにしても、「造精器」ら放出された精子が「造卵器」の受精細胞に到達すると、受精卵(果胞子)が作られます。
そして、2月の終わりから3月ごろ、暖かくなり始めると、海苔の体から受精卵(果胞子)が海中へ放出されます。そして葉状体は衰退し、消滅します。
2. 貝殻の中で受精卵が「糸状体」に変化(春~秋)
放出された受精卵(果胞子)は、海中の貝殻(カキ殻など)に付着し、その内部へと潜り込みます。 貝殻の中で、受精卵(果胞子)は目に見えないほど細い糸状の姿(糸状体)に変化します。 貝殻の中に隠れることで、夏の高温や強い光に弱い海苔は、厳しい夏を越すことができます。この姿はかつては別の生物だと思われていました。
3. 殻胞子の放出と着生(秋)
秋になり、水温が20度くらいまで下がると、成長した糸状体が胞子嚢を持ち、潜んでいた貝殻の中から殻胞子(かくほうし)を放出します。 放出された殻胞子は磯の岩場や海苔網に付着します。 付着した胞子は細胞分裂を繰り返し、再び私たちが目にする「葉状体」つまり「海苔」へと成長していきます。
4. 無性生殖による増殖(晩秋~冬)
成長の初期段階(数ミリ程度の時)において、海苔は自分のコピーを作る「単胞子」を放出し、爆発的に数を増やします。これにより、冬の最盛期に向けて群落が形成されるのです。
岩海苔が育つ場所
葉状体となった海苔が暮らす場所は、潮の満ち引きによって、満潮では海中に沈み、干潮では磯となる潮間帯です。潮通しが良い場所でよく育ちます。式根島では、あちこちで見られますが、良いものをたくさん、となると冷たい西風が当たる荒磯が最適地。海水温度が15度以下になった頃が目安です。

岩海苔摘みの様子
新年、七草がゆの頃、待ちに待った海苔漁の口開け(解禁日)になりました。なお、式根島では岩海苔やハバノリなどの海藻は漁業権が設定されていますので一般の方の採取はできません。
干潮時を見計らって、式根島のベテラン漁師さんの船で、海に浮かぶ離れ磯に来ました。防水防寒仕度をして、スパイク長靴やフェルトの磯靴を履き、ライフジャケットをつけて完全防備で臨みます。潮が満ちれば海中に沈む潮間帯ですから、足元が滑ることこの上ありません。そして、良質な海苔は岩の側面にあることが多く、大変危険です。

各自で分散して、次々に海苔をはがしていきます。

道具はハサミ、手袋、ザルや背負いかご、クーラーボックスです。ハサミで根元を切り落とせば、岩や砂がつかなくて後々の処理が楽ですが、やや、スピードが落ちます。下の動画のように手でむしりとることが多くなります。
それでも、水を多く含んでいる海苔はハサミを使わないとすべって採れません。
海面の際ともなれば、波をよけるようにして作業することもしばしば。落水しないように最大限の注意を払います。




波しぶきをかぶりながら、頑張りましたらば、海苔をたくさん採ることができました。



海苔の生えている様子がわかりますでしょうか?
こちらは、別の種類の海苔で「ハバノリ」と「アオサノリ」です。ハバノリを炊き込んだ「はんば飯」は島民の大ごちそうです。アオサノリは香りが良いので、岩海苔を干すときに適度に混ぜ込むなど、こだわる島民もいます。しかし、アオサノリは岩や砂利を噛みやすく、これをきれいに下処理するのは苦労です。


岩海苔(向かって右)とハバノリ(左)の形を比べてみました。この時は全長2、30㎝ですが、もっと大きくなります。

海苔の処理
持ち帰った海苔は下処理をしてから干して板海苔にします。天気が悪い時は、ひとまず、ざっと洗ってから冷蔵または冷凍しておき、好天時に続きを行うことも多いです。ちなみに、ひだぶんの女将は漁業協同組合に所属する漁師ですので、シーズン中には何度も海苔摘みをして、せっせと干し海苔作りに勤しみます。
海苔を洗って漉(す)く
採ってきたままの海苔は基部に石や砂がついているのがあるので、これをハサミで切り取り、何度も何度も水を替えながらよく洗います。ここを適当にすると、食べる時にじゃりっとして美味しくありません。洗った海苔はゴミや石が容器の底に沈むように、水に浮かせてボールですくい、「簾(す)」に広げていきます。




海苔漉きに使う「簾(す)」は各家庭で色々なものを使います。
こちらは、式根島伝統の、竹で編んだ周りを木枠で囲った「エンガ」という道具です。野菜や干物を干すほか、海苔漉きでも活躍します。


こちらは、昔から海苔漉き用で作られ、軽く50年以上も使われてきた「海苔簾」です。今は手作りする人はいません。

手軽に使えるのはプラスチックの角ザルです。

海苔は干し過ぎても、風味が落ちてしまいます。晴れた日を見計らい、様子を見ながら1~2日干します。
岩海苔の食べ方
岩海苔は、やはりシンプルに焙って食べるのが最高。今年の一番海苔を、漁師さんがガス火で丁寧にあぶってくれました。干しあがった海苔は黒々とつややかに輝いて、見るからに最高級!手間暇を考えたら、とても値段がつけられません。
まずは、そのままいただいて海苔の香りを味わい、続いて餅やおにぎりと一緒にいただきます。この味わいを島民たちは一年間、待ち望んでいました。大げさでなく、歓声が上がります。



焙った海苔は、このように前菜に添えても、バエます。

こちらは、早春から春にかけて採れるツワブキの新芽「ふきんとう」と海苔を一緒に煮た式根島の郷土料理です。言葉にできない美味しさなんです。

採った岩海苔やハバ海苔は空気を抜いた袋で冷凍しておけば、風味が長持ちします。

以上、式根島の早春のお楽しみ、海苔摘みのお話でした。伊豆諸島のお土産といえば「岩のり」。ぜひお召し上がりくださいね。

