「温泉ってそもそもなんなの?」「泉質ってどうやって決まるの?」
「どうして式根島だけ、あちこち温泉が湧くの?」

今回は、式根島の宝「温泉」を深く知ることができる、科学と温泉法に基づいた温泉講座をお届けします。イメージでなんとなく語られがちな温泉ですが、その正体を知ることで、式根島の温泉体験をもっと深く、もっと貴重な時間にできます。

地鉈温泉

そもそも温泉とは、なんだろう?

温泉の定義

温泉は、単に「温かいお湯」ではありません。日本の「温泉法」という法律によって、科学的にはっきり定義されています。温泉とは、地中から湧き出す温水、鉱水、水蒸気、その他のガス(天然ガスを除く)のうち、以下のいずれか一つを満たしているものを指します。

  1. 源泉温度が摂氏25度以上であること
  2. 指定された19種類の物質(リチウムイオン、メタけい酸など)のうち、いずれか一つが規定量以上含まれていること。

つまり、お湯が25℃より熱いか、特定のミネラル分やガスを豊富に含んでいれば「温泉」として法律的に認められます。

温泉の定義となる19種類の物質と規定量

物質名規定量(1kg中)
1. 遊離炭酸(二酸化炭素)250mg以上
2. リチウムイオン (Li⁺)1mg以上
3. ストロンチウムイオン (Sr²⁺)10mg以上
4. バリウムイオン (Ba²⁺)5mg以上
5. フェロまたはフェリイオン(鉄イオン)10mg以上
6. 第一マンガンイオン (Mn²⁺)10mg以上
7. 水素イオン (H⁺)1mg以上
8. 臭素イオン (Br⁻)5mg以上
9. ヨウ素イオン (I⁻)1mg以上
10. フッ素イオン (F⁻)2mg以上
11. ヒドロひ酸イオン (HAsO₄²⁻)1.3mg以上
12. メタ亜ひ酸 (HAsO₂)1mg以上
13. 総硫黄 (S)1mg以上
14. メタホウ酸 (HBO₂)5mg以上
15. メタけい酸 (H₂SiO₃)50mg以上
16. 重炭酸そうだ(炭酸水素ナトリウム)340mg以上
17. ラドン (Rn)20(百億分の一キュリー単位)以上
18. ラジウム塩 (Ra)1億分の一mg以上
19. 溶存物質(ガス性を除く)の総量1,000mg以上

 

療養泉の判定基準

温泉の中でも、特定の条件の温泉を療養泉と呼びます。療養泉と判定されると、初めて「掲示用泉質名」(例:塩化物泉など)を名乗ることができ、具体的な「適応症(効能)」を掲示できるようになります。

  1. 温度: 源泉温度が25℃以上あること
  2. 成分量: 溶存物質(ガス成分を除く)が1,000mg/kg以上あること。
  3. 特殊成分: 特定の物質が一定量以上含まれていること。

療養泉の定義となる7種類の物質と規定量

判定物質名規定量(1kg中)
遊離炭酸(二酸化炭素)1,000mg以上
銅イオン (Cu²⁺)1mg以上
鉄イオン (Fe²⁺ + Fe³⁺)20mg以上
アルミニウムイオン (Al³⁺)100mg以上
水素イオン (H⁺)1mg以上 (pH3.0未満)
総硫黄 (S)2mg以上
ラドン (Rn)8.25(百億分の一キュリー単位)以上

温泉と療養泉の区別はなかなか紛らわしいのですが、源泉温度が25℃以上あれば、温泉かつ療養泉です。温度が低くても、溶存物質が1,000mg/kg以上あれば同じく温泉かつ療養泉です。温度や溶存物質の総量が満たなくても、特定の物質が規定量あれば、温泉または療養泉になります。式根島の主だった温泉は25℃以上あり、溶存物質も多いので、すべて療養泉に該当します。

温泉泉質名と代表温泉地

療養泉に該当すると掲示用泉質名を名乗れます。かつては曖昧な通称だった旧泉質名は、1983年より、温泉1kg中に含まれる成分をミリバル単位で測定し、多い順に並べる「新泉質名」(例:含鉄(Ⅱ)-ナトリウム-塩化物泉など)になりました。2014年に、掲示用泉質名が10種類に分類され、適応症・禁忌症も刷新されました。

療養泉の掲示用泉質名と旧泉質名、主な温泉

新泉質名(掲示用泉質名)旧泉質名主な温泉
①単純温泉①単純温泉など下呂温泉、道後温泉
②二酸化炭素泉②炭酸泉など長湯温泉(ラムネ温泉)、有馬温泉
③炭酸水素塩泉③重曹泉・重炭酸土類泉など湯の峰温泉、嬉野温泉
④塩化物泉④食塩泉・強食塩泉など熱海温泉、地鉈温泉
⑤含よう素泉⑤含ヨウ素-食塩泉など白子温泉、信州高山温泉郷
⑥硫酸塩泉⑥芒硝泉・石膏泉・正苦味泉など法師温泉、天城湯ヶ島温泉
⑦含鉄泉⑦鉄泉など有馬温泉、黄金崎不老ふ死温泉
⑧硫黄泉⑧硫黄泉など日光湯元温泉、万座温泉
⑨酸性泉⑨単純酸性泉玉川温泉、草津温泉
⑩放射能泉⑩単純放射能泉など三朝温泉、増富温泉

環境省/療養泉:新旧泉質名対照表(PDF)

成分はどうやって温泉に溶けるの

温泉の成分が水に溶け込むプロセスは、主に「岩石と水の反応」「火山活動による熱と圧力」が長い歳月をかけることで進みます。

  1. 岩石-水反応
    地表に降った雨水などが地下に浸透し、大地のエネルギー(熱)を取り込みながら岩石と接触し、化学反応を起こすことで岩石の成分が溶けだします。
  2. 火山活動による加熱と成分供給
    火山の地下には、まだ冷めきっていない高温のマグマがあります。マグマは完全に冷えるまでの間、熱や火山性のガスを出し続けます。そして、その熱やガスに地下水が触れると、熱せられた地下水は高圧になって、地下の割れ目を通って周りの岩石の成分を溶かしながら上昇し、地表に湧き出します。マグマから放出された水蒸気やガス(二酸化炭素、硫化水素など)も地下水に溶け込んで温泉成分の一部となります。温泉の成分は、同じ温泉地でも上昇ルートが違えば微妙に異なります。

pHによる成分の状態変化

その温泉のpH(酸性・アルカリ性の度合い)により、成分の溶け込み方が変わります。

成分名pHによる溶け方の変化
メタケイ酸pH 9.7未満では「分子」として存在。pHが高くなると「イオン」として溶け込みやすくなる。
メタホウ酸pH 9.2未満では「分子」として存在。アルカリ性が強まると「ほう酸イオン」へと変化する。
硫酸イオン強酸性(pH 2.5以下など)では、水素と結合して「硫酸水素イオン」などの形で安定する。

つまり、温泉の泉質は、その地下にある地質・鉱物や状態、水脈、pH、マグマによる熱など複雑な要素で決定され、この世に2つと同じものはありません。いうなれば、その場所の岩石と水と熱のブレンド、地球のスープと言えるでしょう。

温泉分析書の読み方

温泉法に基づき、温泉を浴用または飲用利用施設には温泉分析書の掲示が義務付けられています。温泉分析表を読むと何がわかるのでしょうか。

温泉分析書でわかること

温泉分析書には、その温泉の素性や正体について、登録制の専門機関による分析結果が書かれています。

  1. 基本情報
    • 源泉名・湧出地: 温泉の「名前」と「どこから湧いているか」が分かります。
    • 湧出形態: 自然湧出か、掘削か、動力で汲み上げているかなどが分かります。
    • 泉温: 源泉の温度と、浴槽内の温度が分かります。
       
  2. 成分と泉質
    • 成分(含有成分): 温泉1kg(1L)に含まれる主要な成分(ナトリウム、カルシウム、塩化物イオン、炭酸水素イオンなど)の量が分かります。
    • 泉質名: 分析結果に基づき、温泉法が定めた「単純温泉」「塩化物泉」「硫黄泉」など10種類に分類され、その温泉の個性が分かります。
    • pH値(水素イオン濃度): pH7を中性とし、小さいほど酸性(肌への刺激が強い)、大きいほどアルカリ性(すべすべ感)が強いことが分かります。
       
  3. 利用方法と安全性
    • 給湯方式: 源泉かけ流し(完全放流式)、循環式、または併用かなどが分かります。かけ流しは源泉まま、循環式は薬剤消毒されます。
    • 温泉の処理: 加水(水で薄める)、加温(ボイラーで温める)、消毒(塩素など)の有無が分かります。
    • 適応症・禁忌症: 「一般的適応症」(全温泉共通)と「泉質別適応症」(泉質特有)があり、どんな症状に効くか、どんな人は入浴を控えるべきか(禁忌症)が分かります。
       
  4. 感覚的な情報
    • 色・香り・味: 検査した人間による知覚試験(目・鼻・口)の結果として、その温泉の色や香り、味わいが書かれており、より具体的にイメージできます。 

コラム「温泉分析書掲示が義務になった理由」

 
温泉の公共利用について、温泉分析表掲示などのルールが厳格になった背景には、2004年の「温泉偽装問題」があります。当時、一部の温泉地で実際の泉質とは異なる表示を行ったり、極端な加水や水道水を利用、入浴剤を添加する行為が大きな社会問題になったのです。

これを受け、温泉が国民の保養や療養に正しく寄与できるよう、成分表示の透明性が強く求められ、温泉利用施設は2005年より温泉成分書と湯船での利用形態(加水・加温・かけ流し・循環など)の掲示が義務付けられました。温泉分析書については、10年ごとに再分析をして更新しなくてはいけません。

式根島の温泉のなりたち

長々と温泉の基本知識を解説してきましたが、いよいよ式根島の温泉の話に入ります。

燃える地球パワーの贈り物

なぜ、式根島は温泉が豊富なのでしょうか。それは、式根島が、伊豆−小笠原−マリアナ弧に位置する単成火山群の一つであることが大きな理由です。島の地下へ浸透する雨水や海水は、比較的浅い場所にあるマグマで熱せられ、高圧になり、周りの鉱物を溶けこませながら岩の割れ目を通って、地表に向かって上昇し温泉となって湧き出します。

式根島全体を構成する式根島火山のマグマ由来の黒雲母流紋岩は、非常に粘り気が強く、冷え固まる際に節理(せつり)と呼ばれる割れ目(ヒビ)を無数に生じる性質があります。この割れ目が島全体に渡っているため、式根島はあちこちから、温泉が湧く島となりました。

なお、黒雲母流紋岩には、石英や長石に加えて黒雲母がまじっています。黒雲母はカリウム、マグネシウム、鉄、アルミニウム、ケイ素、酸素、水素、フッ素などを含む複雑な鉱物です。このような鉱物由来の成分が、式根島の温泉の個性を決めています。

そこらの砂浜に温泉が湧いている

こちらは式根島の水問題解決を目的に行われた1967年の調査データですが、当時、野伏港の方にも温泉が認められている様子がわかります。湧水については崖線にしみだしていたものが主と思われます。いくぶん古いデータなので現在と異なる状況もあると思いますが、参考のため掲載します。
※わかりやすいようマークの色分けを加筆しました

(一色 直記 (1987) 『地域地質研究報告 5万分の1地質図幅:新島地域の地質』 産業技術総合研究所 地質調査総合センター(旧:地質調査所)第32図)より引用

他の島より温泉が湧き出る理由

さて、伊豆諸島は全て火山島なのに、式根島ほど温泉が自然湧出している島はありません。その理由は、式根島が高い山がない小さな平たい島だからです。

島名最高標高山名最高地点の概要
伊豆大島758m三原山成層火山の活火山。中央
火口丘でお鉢巡りできる
利島508m宮塚山円錐形の火山島。
椿林に覆われる
新島432m石山コーガ石の採掘地。
白い岩肌が特徴
式根島109m佐々木山唐人津城の一角。
他島よりぺっちゃんこ
神津島572m天上山島の象徴。信仰と登山の対象
三宅島775m雄山活火山。2000年噴火
以降も監視対象
御蔵島851m御山原生林に覆われた急峻な山
八丈島854m八丈富士成層火山。お鉢巡りが可能
青ヶ島423m丸山二重カルデラ地形の外輪山

水なき島が温泉の宝庫になった必然

式根島には、降った雨水を地下水として貯められる大きな山がありません。降った雨水(淡水)は火山由来のヒビ割れの多い地面に染み込み、比重が重い海水を含む帯水層の上にレンズ上に溜まります。この貯水体を淡水レンズといいます。

今まで、苦労して掘った井戸の水に塩分が混じってしまうなど、真水を得る困難さからもわかるとおり、式根島の淡水の層は薄く、貯水量はわずかです。しかし、そのおかげで、マグマの影響で高温になって密度が小さくなった温泉は地下水圧に邪魔されることなく、岩盤のヒビを通って素直に地上に浮上できます。

式根島の場合

大きな山があって、大量の地下水があれば、地下水圧が高くなり、温泉は押し込められて、なかなか地表に湧き出せません。また、溜まっている淡水に混ざってしまうなど、大きな島になるほど、湧出ルートは複雑になりがちです。

大きな島の場合

地下水がないことで苦しんだ式根島ですが、その透水性の高い地質と島の小ささや平たさが、秘湯の島を生んだのです。
このように、火山学や水文学など地球科学の視点から、式根島の温泉を見つめてみることで、より、深い温泉体験を得ることができます。

ぺっちゃんこな式根島と天上山がそびえる神津島

憩の家の源泉「式根島温泉井」

それでは、温泉分析表を見ることができる公共の温浴施設「憩の家」の源泉を見ていきましょう。

憩の家の源泉はどこにある

「憩の家」の源泉は、地鉈温泉の入口付近からボーリング(掘削)で汲み上げ(動力揚湯)、1005番地にある一次受湯槽に通したのち、施設に引湯されています。
位置関係からも憩の家と地鉈温泉は、ほぼ同じ泉質と考えてよいでしょう。松が下雅湯も同じ源泉を使用しています。ナトリウム・塩化物強塩温泉らしい、よく温まる浴感や酸化して茶褐色に変化する特徴も同じです。

憩の家の「式根島温泉井」温泉分析書

それでは、憩の家に掲示されている温泉分析書と別表から、式根島を代表する源泉「式根島温泉井」の特徴をみていきましょう。

式根島温泉井源泉の特徴

温泉分析書から読み取れる特徴は以下の通りです。

  • 泉温が76.8℃と高温である
  • 動力を使い、地鉈温泉崖上から穴を掘り、1分あたり490Lのペースで源泉を汲み上げている
  • 無色澄明強鹸味殆ど無臭、ガス発生あり
    無色澄明というのは、源泉は透明であるということです。地鉈も雅湯も憩の家も湯の色は茶褐色ではと思うかも知れませんが、湧出してすぐの温泉はたいてい透明です。透明の湯が地上で空気に触れて酸化することで色が変わります。式根島温泉井の源泉は、鉄(Ⅱ)イオンが入っているので、鉄分が酸化したときの錆(さび)色に変わります。逆説的に言えば、透明に近い湯ほど、温泉の鮮度がよいということになります。

    強鹹味(きょうかんみ)というのは、試験官が口に含んで感知した味が強い塩味だったという意味です。塩辛さを表現しています。

    殆ど無臭は、ほとんど臭いがしない、頑張れば何か臭うかな?程度ということです。具体的に何の臭いと書かれていないので、これ以上わかりません。
     
    ガス発生ありは温泉に気体が溶け込んでいるという意味で、分析表の溶存ガス成分を見れば、どのガスかが大体わかります。この源泉1000mgあたり、二酸化炭素が146.1mg入っていると書かれているので、正体は二酸化炭素です。といっても、炭酸泉と呼ぶには、二酸化炭素が1000mg以上含まれていないといけませんので、それほどではないです。ほかに0.2mgと微量の硫化水素ガスが含まれています。硫化水素ガスはいわゆる硫黄臭のことでで卵の腐ったようなにおいがします。温泉らしさの象徴で人気がありますが、硫黄泉(硫化水素型)と呼ばれるには、2mgが必要です。式根島温泉井は、その1/10程度となります。
     
  • 泉質:ナトリウム-塩化物ナトリウム強塩温泉(高張性・弱酸性・高温泉)
    ナトリウム-塩化物ナトリウム強塩温泉とは、この源泉の主成分は塩分であることを示しています。塩化物イオンが19.54gと強塩温泉の規定である8.5gを大きく超えており、これは海水とだいたい同じ塩分濃度です。さらに鉄やマグネシウム、カルシウム、硫酸などの鉱物が溶け込んで、独特の温泉らしさを醸し出しています。
     
    高張性というのは、温泉に溶け込んでいる溶存物質の総量が10000mg以上あり、人間の体液より成分が濃い液体であることを示しています。高張性の湯は、逆浸透によって体から水分が出ます(脱水)が、代わりに温泉成分が吸収されやすくなります。
     
    弱酸性はpHが5.9だからです。中性(pH7)よりなので、お肌にも優しいでしょう。

    高温泉は源泉が42℃以上の温泉を指します。この源泉は湧出温度77℃近いので余裕でクリアです。

    さて、茶褐色に変色する見た目から、鉄分が豊富な「含鉄泉」でないのか?という疑問があるかもしれません。実は、見た目のわりに、この温泉に含まれている鉄(Ⅱ)イオンは3.9mg/1000mg程度であり、含鉄泉の基準20mg/kg以上に及びません。
    青森県の有名温泉で、海岸に湧く黄金崎不老不死温泉があります。大海原を眺めて入る雰囲気やお湯の色や見た目、鉄が錆びたような香りの金気臭など、地鉈温泉によく似ていますが、こちらは鉄(Ⅱ)イオンが25.5mg/kgあります。よって、泉質は含鉄ーナトリウムー塩化物強塩温泉となっています。

以上、意外とマイルドな地鉈温泉の泉質です。しかし、V字峡谷の谷底の磯間に湧く、唯一無二の野趣あふれる景観と高温泉ならではの熱気や噴気、磯の香りと混ざる独特の湯の香りなど、間違いなく日本有数の秘湯です。

足付温泉について

干潮時しか適温にならない足付温泉は、無色透明です。海水と混じっているため、泉質をひとえに語れないものがありますが、それでも1980年に行われた温泉分析の記録が残っています。それによれば、足付温泉の泉質は以下の通りとなっています。

泉質名:ナトリウム-塩化物強塩温泉(高張性・弱酸性・高温泉)
・ pH 5.6(弱酸性)
・ 泉温:58.0℃

温泉1000mg中(=1kg=1L)に含まれる主要な成分

成分分類イオン名含有量 (mg/l)
陽イオンナトリウムイオン6,000
マグネシウムイオン507
カリウムイオン420
カルシウムイオン359
陰イオン塩化物イオン10,400
硫酸イオン940

足元の岩の隙間から気泡をともなって湧出していますが、炭酸泉の定義である源泉1000mgに対して溶存ガス成分として二酸化炭素が1000mg以上含まれるという記録はありません。

(一色 直記 (1987) 『地域地質研究報告 5万分の1地質図幅:新島地域の地質』 産業技術総合研究所 地質調査総合センター(旧:地質調査所)第22表 no.5)

よくある質問

Q
地鉈温泉や松ケ下雅湯の岩などについている茶色の物質はなんですか?
A

温泉に含まれる鉄分(鉄(II)イオン)が空気中の酸素に触れて酸化し、水に溶けにくい「鉄化合物(水酸化鉄など)」に変化して、周囲の岩盤や浴槽の縁に付着した「温泉析出物」です。湯の華のようなもので、温泉らしさを感じる一因となっています。薄い色の水着や服、タオルにつくと取れないので、注意してください。

Q
地鉈温泉は硫黄の香りがしますか?
A

硫黄の香りは一般的に硫化水素ガスを指します。式根島温泉井の温泉分析表によれば、源泉はほとんど無臭とあるので、基本は無臭です。ただし、硫化水素ガスが源泉1000mgあたり0.2mg含まれているのも事実です。硫黄泉の規定となる1/10程度で微量ですが、人間は自分にとって猛毒の硫化水素の臭いを敏感に察知できる性質があるので、感度の高い方や風などの条件で硫黄臭を感じる可能性はあります。実際に過去の島内の源泉調査に関する論文で「弱い硫化水素臭を感じた」という記載もあります。

Q
足付温泉に浮かんでいる泡はなんですか?
A

足付温泉というより、その泡は、海水の出入りが少ない磯だまりにも浮かんでいると思います。海水中には、植物プランクトンや海藻などが分解された際に生じるタンパク質や多糖類などの有機物が含まれています。これらの物質が界面活性剤のような働きをし、 波が岩に打ち付けられたり、風で海水がかき混ぜられたりすることで、空気が海水中に巻き込まれて泡となります。泡は安定して消えずに漂います。足付温泉の場合は、海底から火山性ガスをともなった源泉がわいていますので、その影響もあるかもしれません。いずれにしても、一般的な自然現象であり、汚いわけではありません。

Q
地鉈温泉と足付温泉は同じ泉質なのに、色が違うのはなぜですか?
A

地鉈温泉と足付温泉は、確かにどちらも同じ、ナトリウム-塩化物強塩温泉(高張性・弱酸性・高温泉)です。しかし、同じ泉質でも、含まれている成分やpHは温泉ごとに違い、色や湯ざわりは百湯百色となります。地鉈温泉も足付温泉も温泉そのものは無色透明です。ただし、地鉈温泉は鉄分が多く含まれているため、空気に触れると酸化して(さびて)さびの色に変化します。足付温泉は鉄分が少ないため色が変わりません。その違いです。

Q
同じ泉質なのに、どうして地鉈温泉は内科の湯といわれ、足付温泉は外科の湯といわれるのですか?
A

地鉈温泉と足付温泉はどちらもナトリウム-塩化物強塩温泉(高張性・弱酸性・高温泉)で、療養泉の「塩化物泉」に該当します。まず法的に掲示が認められている適応症と禁忌についてみていきましょう。
 

法的に掲示が認められている適応症と禁忌

【一般的適応症(浴用)】
筋肉若しくは関節の慢性的な痛み又はこわばり(関節リウマチ、変形性関節症、腰痛症、神経痛、五十肩、打撲、捻挫などの慢性期)、運動麻痺における筋肉のこわばり、冷え性、末梢循環障害、胃腸機能の低下(胃がもたれる、ガスがたまるなど)、軽症高血圧、耐糖能異常(糖尿病)、軽い高コレステロール血症、軽い喘息又は肺気腫、痔の痛み、自律神経不安定症、ストレスによる諸症状(睡眠障害、うつ状態など)、病後回復期、疲労回復、健康増進。
 

【塩化物泉の泉質別適応症】
きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症


【一般的禁忌症(浴用)】
病気の活動期(特に熱のあるとき)、活動性の結核、進行した悪性腫瘍又は高度の貧血など身体衰弱の著しい場合、少し動くと息苦しくなるような重い心臓病又は肺の病気、むくみのあるような重い腎臓の病気、消化管出血、目に見える出血があるとき、慢性の病気の急性増悪期。
 

式根島に伝わる温泉別の効能

式根島では、地鉈温泉は神経痛、リウマチ、冷え性、胃腸病などに効く「内科の湯」、足付温泉は切り傷、すり傷、おでき、水虫、皮膚炎などに効く「外科の湯」と呼んでいます。そして、島民や湯治客は、昔から治したい病気やけがに合わせて温泉を選んで入っていました。

殺菌効果が高く、よく温まる塩化物泉は、適応症の通り、内科・外科の両方に効くことがわかりますが、それぞれの温泉の場所や温度、成分の違いなどから、島民は体験的により適応するケガや病気を知り、湯治効果を高めていたのでしょう。これもまた医療のない離島を生き抜く知恵の1つです。

これは雑感ですが、地鉈温泉は鉄分の影響で錆色に変化していますし、析出物も多いので、なんとなく生傷があるときは入りにくい気がしますね。

足付温泉

足付温泉の湧出風景の動画

Q
温泉の足元がぬるぬるしているのはなんですか?
A

底に沈殿したミネラルや、そこに生きる微生物が生み出したバイオフィルムや藻類などで、海中と同様の自然環境由来のものとなります。松ケ下雅湯はともかく、地鉈温泉や足付温泉等の海中温泉は、磯そのものですから、ケガ防止のためにも、マリンシューズを履いて入浴するなど工夫すると良いでしょう。

Q
フナムシからは逃げられませんか?
A

そもそも磯自体がフナムシの住処なのでどうしようもありません。しかし、さすがにお湯にはいませんので、フナムシがいない場所が適温の目安に…(苦しい)。心の消しゴムマジックで頑張りましょう。

Q
湯冷めしませんか?
A

真冬を想定して回答します。湯上り後、なるべく早く着替えましょう。そのために、水を入れた2Lのペットボトルを持参し、温泉の熱い場所に沈めて水を温め、湯上り後にぬるま湯となった水を身体にかけ、服を着てしまうのが一番です。式根島の温泉は、よく温まると定評の熱の湯・塩化物泉です。
少し熱めの場所を選んで、よく浸かりましょう。脱水防止の飲み物持参をお忘れなく。

Q
自分で掘って作った温泉に入ってみたいです
A

干潮のタイミングで、石白川海岸に行き、海に向かって右手に進むと、温泉があちこちから湧いています。湯船のようになっている磯だまりで温浴するのはよく見る風景。ガチな方は、土嚢を持ってきてMy露天風呂を作っています。ただ、式根島の源泉温度は高いので、砂蒸し風呂を試みる時は充分にご注意ください。

Q
「湯加減の穴」はなぜ温かいのですか?
A

湯加減の穴は、岩盤のヒビを伝って地下から上がってきた火山ガスや水蒸気が噴き出す噴気孔です。火山ガスは90~98%が水蒸気ですので、手を入れると温かな湿気を感じます。式根島の場合、残りは二酸化炭素が主成分となります。猫が安心して入っているくらいなので、その濃度は低く、猛毒の硫化水素ガスも、ほとんどないことがわかりますね。

最後に

ここまで読み進めた方は、もう立派な式根島温泉博士です。

温泉が、その土地の「水」「鉱物」「地熱」で作られているという事実を知ったことで、式根島で実際に触れる湯の感触や香りが、今までとは違った特別なメッセージとして伝わってくるはずです。

じんわりと温かい

式根島の温泉は、潮の満ち引きや天候によって、刻々と姿を変えます。
知識というスパイスで、その湯に秘められた物語を感じられたら、いっそう思い出深いものになるはずです。式根島に湧き出す極上の地球のスープを心ゆくまで味わいに、ぜひお越しください。お待ちしております。

関連リンク

参考文献リスト

  1. 一色 直記 (1987) 『地域地質研究報告 5万分の1地質図幅:新島地域の地質』 産業技術総合研究所 地質調査総合センター(旧:地質調査所).
  2. 環境省 『鉱泉分析法指針(平成26年改訂)』
  3. 憩の家 温泉分析書
  4. 環境研 第14号「温泉とマグマの話」

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