「朝便」とは東京から神津島へと向かう下り便のことだ。通常、下り便は朝9:05(夏季は8:05)に式根島へ到着し、上り便は11:25(夏季は10:25)に式根島を出発する。しかし、天候が荒れると下り便だけ就航し、上りは欠航することもある。では、神津島までへ行ってしまった船はどうなるのかというと、その後、式根島、新島、利島へは寄港せず、大島だけ寄って、東京へ戻る。そうなると、式根島、新島、利島から東京方面へ向かう乗客は下り便が到着した時点で乗船する羽目になるのだ。
当然、不運だと言えよう。2時間20分も早く出て、到着時刻は変わらないのだから。しかし、そこはマイナスをプラスに!ネガティブをポジティブに!スマイル!で港区への船旅を楽しみましょう。船は揺れる。10度、20度、30度!スマイル!足元も覚束なく、強風に晒されようとも、勇気を出して甲板へ出てみましょう。そこには朝便でしか見れない景色があるのだから…。
神津島に接近!

朝便では神津島の観光名所、鏡穴を洋上から見ることもできる。
それは、通常の前浜ではなく、多幸湾で着岸するからだ。

湾内に入ると、海際からいきなり聳え立つのは、かの天上山。白妙の山容が目の前にのしかかる。この山肌一面を覆う砂は山頂の裏砂漠から続いているのだ。
ここで船内の清掃が入り、一旦部屋から退出する。しばらく待つことになるのだが、南東に開けた湾内はそれまでの荒れ狂う大海原とは打って変わって静穏で、甲板に出てのんびり過ごすのも悪くない。

さて、多幸湾は神津島で天候が悪ければ、上り便が就航する日でも利用されるのだが、ここからが朝便のみの本番。先述の通り、式根島、新島、利島は寄らず、大島へ直行するのだから、通常の航路を辿る必要はない。西風が強いなら、島の東側を通るのが妥当であろう。すると、知ってる島なのに見慣れない景色が次々と現れる。

白亜と見紛う砂の断崖絶壁で名高い新島であるが、通常この側面は見られない。式根島のぐんじ山展望高から望める早島は新島の手前にあり、更に進むと両島の隙間から式根島も覗ける。

この角度はぐんじ山展望台から望む景色のちょうど反対側。次回訪れたときはこの裏側も想像してみてください。その先にある雪山のような斜面を!

よく見ると、風で砂が舞い上がっている。
ここは新島に上陸しても到達できない。シークレットや羽伏浦は遥か北。そこから歩いても砂浜は砂丘で遮られる。もちろん、よじ登ればたどり着けるのだが、無理のないように。

そして、朝便のみの景色はまだ続く。

淡井浦も沖から眺望。
さらに、新島だけではない。

利島と新島の間にある鵜渡根島も通常運行においては横切るだけで、このように重なることはない。
波は激しく。

虹も出る!

視角がずれていき、利島と鵜渡根島が並ぶと、繋がっているようにも見える。

利島の手前にあった岩山が二島の真ん中に。大きい三角に小さい三角が挟まれた。

ここは裏利島(うらとしま)。連濁して「うらどしま」と呼ぶと、なんだか陰険な響きがあるので、注意。

利島の右奥に富士山が微かに見える。

富士は大島とも並ぶ。

トウシキに迫る。大島も東側を通るので、いつもと違った景色が続く。

一度隠れた富士が大島の北端から見えると、もうすぐ岡田港。そこから先は通常航路となり、朝便のみの景色はそこで終了する。
このように、見どころが点在する朝便ですが、始終外にて、待ち構える必要はありません。ポイントを絞り、到着しそうな時刻に船内のモニターで現在地を確認してから、外に出れば良いのです。因みに、新島に迫るのは神津島出航の約30分後。それでも、いちいち現在地を確認しなければならないのか、やはり寒いのは嫌だ、と思われる方もご安心ください。さるびあ丸五階、一等室前の通路へ行けば、窓越しにこれらの景色が眺められます。椅子はなくとも、窓枠に肘をつき、ぼうっと眺めていれば良いのです。外に出るのはそれからでも遅くはありません。あるいは、そのまま中から鑑賞し続けるのも良いでしょう。
この記事を読んで「朝便で早く出るのも悪くない」、「たまには朝便で帰ってみたい」などと思っていただけたら幸いです。それでは、皆様、良い旅を!