新島や式根島の伝統料理に魚のミンチで作る「たたき」があります。
昔は、それぞれの家庭の味がありましたが、材料調達や作る手間が大変で、最近は式根島漁協婦人部が製造する「漁協のたたき」を買って食べることが増えました。
今回は、とうに捨てたと思っていた年代物の「肉すり機」が見つかったことに気をよくした式根島の95才のバァが「懐かしいねえ。せっかくだから、これでたたきを作ってみようか」とやる気になったので、その秘伝の製法とレシピを教わることにしました。

式根島の「たたき」とは
「たたき」とは青魚のミンチに、玉子と味噌と砂糖、重曹等を入れて練り上げたものです。
できた「たたき」は揚げるのが一番ですが、味噌汁や鍋物にも入れます。昔から漁が盛んだった式根島では、青ムロやトビウオがたくさん獲れた時、その日のうちに作るものでした。この地域の青魚の加工品といったらクサヤが有名ですが、「たたき」も足が早い青魚の日持ちを良くする知恵の1つです。
原材料
なくてはならないのはムロです。青ムロでもムロアジでもいいですが、式根島で圧倒的に漁獲量が多いのは青ムロです。
バァは「トビウオをちぃっと入れると脂がのってうまいんだけど…」といいますが、最近はトビウオはなかなか獲れません。式根島は新島村に属しますが、新島は基本的に青ムロだけで作るそうで、トビウオを入れるのは式根島ならではのようです。かつて、トビウオの漁場として栄えた式根島らしいエピソードです。
参考資料:東京家政大学「月刊フードケミカル」2018年9月号(PDF)
といっても、そこまで厳密に魚の種類が決まっているわけではなく、その時にある魚で作って良いとのこと。ゴマサバでも赤サバでもタカベでも、ちゃーんと美味しくなるそうです。


式根島のお祝いに欠かせない煮物「ひら」
式根島ではお正月や大漁祈願の恵比寿講、いろいろなお祝いの席に「ひら」という煮物を作ります。この祝い煮物に「たたき」が欠かせません。具は、たたきに牛蒡、人参、昆布、魚、きぬさや等、5種類以上を入れ、基本は7種類または9種類の奇数で整えます。ひだぶんでは、右上がりのストライプ状にキリッと盛り付けます。昆布は結び目を表にし、長く切った人参や牛蒡を添えます。
「ひら」もまた、各家庭の味があり、具も、じゃが芋や厚揚げ、こんにゃく、干し大根(そぎ)など多彩です。

バァに昔ながらの「たたき」づくりを教わる
新島から本土に働きに出て、当時最先端のデパート勤務をしていたバァが、何かの縁で式根島の漁師に嫁入りして幾歳月。都会暮らしが一番肌に合ってたとこぼすバァですが、漁師の嫁として、民宿経営をしながら、働きに働いた人生です。このくらいの量の「たたき」作りなど、ものともせず、材料の青ムロの身を観察して一言。
「青ムロだけだとさっぱりするから、玉ねぎを入れてコクを出したいね」
このバァのとっておきの「たたき」作りを順を追って、ご紹介します。
バァのレシピ「たたき」
- ムロアジ12匹
- 玉ねぎ(中)1コ、玉子5コ
- 小麦粉大さじ3(カップ2/3の水で溶く)
- 味噌お玉1/2(カップ2/3の水で溶く)
- 砂糖大さじ3、重曹大さじ1
※上記材料は目安。観察しながら加減する。
1.メイン材料の青ムロを調達する
まず、食材調達担当が、メインの材料となる青ムロを釣らねばなりません。
カゴ釣りでいいかなと考えながら桟橋に行くと、なんと海面いっぱいに青ムロの大群が見え、足元に押し寄せています。これでは、わざわざ、沖にカゴを投げる意味がありません。といって、サビキ釣りの道具もなし…と考えていると、隣の家族連れの小学生が、次々と青ムロを釣っています。そして、食べきれないからと次々と釣った青ムロを海に返しています。
「その青ムロをくれない?」と声をかけると、喜んで次々バケツに入れてくれました。おかげで1時間もかからず12匹GETです。
なお、鮮度が落ちやすい青ムロはすぐ〆て血抜きをし、保冷して持ち帰るのがポイントです。
釣り名人の島民に「これだけいたら、網ですくえそうですね」と声をかけると「すくえるよ」と言って実演してくれました。簡単に見えますが、真似をしたら、全然できませんでした。う~ん、これは奥が深い。
2.青ムロをさばく
30cmくらいの丸々とした青ムロを12匹も持ち帰ると、バァが喜んでくれました。
「さすが、こんなに釣って!たいしたもんだ。」
正しくは小学生から巻き上げたのですが、それはそれ。鮮度が良いうちにさばいて、頭と内蔵を落として皮を剥く下準備に取り掛かります。
その様子をみていた式根島の漁師さんが
「小出刃でやると良い。ムロは頭と内蔵をとったら、3枚おろしにしないで、そのまま背と腹と尾の皮に切れ目を入れて、頭側から皮を手で引き剥く方法が一番早いし、身が傷まない。中骨は捨てるけど、血合い骨や腹骨は残して、一緒にミンチにした方が美味しい」
と教えてくれました。やってみると、3枚おろしにしてから皮を剥くより、しっかり持てる丸魚のまま皮を剥いた方がはるかにやりやすく綺麗にできます。お刺身にするときもこの方法がよさそうです。


3.青ムロをミンチする
さばいた青ムロは年代物の肉すり機(ミートチョッパー/ミンサー)の上部に押し込み、ハンドルを回してミンチにします。
青ムロを次々といれて、手でしっかり押さえるのですが、指が奥に入ってしまうと大怪我をするので気を使います。包丁で叩かず、スクリューで押し出しながらミンチにすることで、特有のむっちりとした歯ざわりが生まれます。


実際に青ムロをミンチしているときの動画
コラム「肉すり機」
式根島で「肉すり機」と呼ばれているのは肉をミンチにする「ミートチョッパー(ミンサー)」のことです。
高額な調理器具ですが、日本では食の洋風化に伴って、高度成長期に広まりました。この「肉すり機」は、大阪に現存する株式会社ボニーの準業務用手廻し式ミンサーNO.22です。同社沿革から推測すると、おそらく1970年代に海を渡って式根島に到来したのでしょう。
材質はマンホールの蓋と同じ鋳鉄で、表面は錫メッキ。半世紀に渡って島の伝統食「たたき」や「ほしい(干芋)」を作り続け、文字通りメッキが剥がれていますが、使うたびに分解して洗えばまだまだ使えます。
民宿を営む家が多い式根島では欠かせない調理器具であり、多くの家々で愛用されていました。




4.調味して重曹を入れる
さて、こちらが、肉すり機を通して、上質な魚ミンチになった青ムロです。

「たたき」は、大きなすり鉢で作ります。
まず、中くらいの玉ねぎを1つ、すり下ろします。次に青ムロのミンチを入れ、すりこ木ですり混ぜながら、玉子を入れます。このときに硬さなどの具合を観察し、玉子の個数を加減します。さらに、つなぎとして水に溶いた小麦粉とふくらし粉(重曹)を入れます。味付けは味噌と砂糖だけでシンプルです。玉子を多めに入れるのがコツだそう。



5.練り上げる
材料を全部入れたら、混ぜていきます。
力がいる作業ですが、たまたま遊びに来ていた男性島民が担当してくれました。出来上がりを見ると、丁寧な性格であることがわかります。


6.油で揚げる「たたき揚げ」を作る
久しぶりに作るバァの「たたき」に一同興味津々です。
「たたき」は揚げたてが一番うまい!と島民が口を揃えますので、迷わず油で揚げて「たたき揚げ」を作ることにします。「たたき」は青魚ですから、どうしても使用後の揚げ油に臭いがつきます。使いまわしの油でよいでしょう。
「たたき」は成形せず、2本のしゃもじやヘラですくって、なるべく平らに、細長い形になるように油に落とし入れていきます。

「たたき」は火が通ると、重曹の効果で、ふわっふわに膨らみます。揚げ加減は色で判別します。かなり濃い色になるまでしっかり揚げるのがポイント。下の動画で実際の揚げ加減がわかります。
7.出来上がり
揚げた「たたき」は冷めると、すぐ萎んでしまいます。熱々、ふっくらのうちに頬張りましょう。
味がついているので、何もつけなくても充分な美味しさ。新鮮な青ムロの旨味と、ほんのりした甘みが堪能できます!この「たたき揚げ」はさつま揚げ同様、煮物の材料として使えます。
揚げるそばから、右から左から手が出て、次々消えていくのが、「たたき」作りの風景です。バァも試食して「おいしくできた!」と大満足。でもそのあと「トビウオが入った昔ながらのたたきを食べさせたかったなぁ~」
レシピもしっかりメモがとれたし、これでバァの味は狂いなく受け継がれます。

バァ、ごちそうさまでした!

たたきはトビウオを混ぜると、味がずっとよくなるの。
昔は獲った魚は、くさやにしたり、「たたき」にしたり、手をかけて日持ちさせる工夫をしたんだよ。
