式根島の伝統的な正月飾りを一から作っている島民は、今やただ一人。あの自然薯掘り名人です。

今回は式根島の正月飾りについて、1ヶ月以上かかる制作過程のレポートを添えて紹介いたします。お正月に式根島に来る機会があったら、ぜひ、島内各所に飾られている手作りの正月飾りに注目してみてください。

式根島の正月飾りの種類

式根島の正月飾りは、大飾り(おおかざり)と小飾り(こかざり)、年縄(としなわ)の3種類あります。泊神社や東要寺に飾るものなど、用途に合わせてアレンジもします。

大飾り:各家の玄関に飾る
大飾り(一回り細め):神棚と仏壇に飾る。
※仏壇の飾りには仏が栄えないように”代々栄える”縁起物の橙(ダイダイ)は付けない。

小飾り:祠や自転車、車、船などに飾る

年縄:一般でいうしめ縄のことで、家庭の応接間に右から、7本、5本、3本の藁のすだれが並ぶように飾る。

式根島の正月飾りの材料

正月飾りの材料は、一般的に長寿や繁栄など「新年の願い」を象徴する縁起物から選ばれます。その土地の風土に根ざし、神様を迎える独自の形が代々受け継がれ、式根島では次の4つを使用します。

(ワラ)

藁とは稲や麦の茎を干したもので、黄金色に輝く実りの象徴。古来より稲には神聖な魂が宿るとされ、その藁で編むしめ縄には、収穫への感謝と新年の五穀豊穣の願いが込められています。

裏白(ウラジロ)

葉の裏が白いことから裏表のない清廉潔白な心白髪までの長寿を象徴。左右対称の姿は夫婦円満を、古い葉と共に新芽が伸びる様は子孫繁栄を願うもので、正月に欠かせない縁起物です。

譲り葉(ユズリハ)

春に新芽が出たあと、譲るように古い葉が落ちる特徴から、家を次世代へ円滑に引き継ぐ象徴とされます。家系が絶えることなく健やかに続いていく子孫繁栄の願いが込められています。

(ダイダイ)

年を越しても実が枝から落ちにくく、数年にわたることもあるため代々栄えることを象徴。
冬を越すと橙色から、また緑に戻るため回青橙とも呼ばれる生命力の強い果実です。

藁以外の材料は身近に手に入ります(個数が必要な橙は取り寄せています)。
昔は各家庭で正月飾りを作っていましたが、水田がない式根島では藁が手に入らず、炭が入っていた俵をほぐして大事にとっておいて使ったそうです。

式根島の正月飾りの制作レポート(11月下旬~年末)

正月飾りの制作と一言で言っても、その工程は多く、11月下旬ころから材料調達をはじめ、1か月以上かけて、ようやく出来上がります。その様子を追いかけてみましょう。

1.ウラジロを採り集めて、適切に保管する

名人の正月飾り作りは毎年、11月にウラジロ(裏白)集めから始まります。名人は良いウラジロが生える場所を把握していますので、探し回るようなことはありません。このウラジロを新年まで新鮮な状態で保つ秘訣は、黒い厚手のビニールに入れること。2か月くらいなら常温保存で大丈夫です。

2.稲藁の下準備

式根島では、稲藁が手に入らないので、注文します。届くのは、乾いた、脱穀済みの稲の茎です。これを束ねて、3つの紐で結びます。一番下の紐は、これより下は藁を叩かない印となるので、バカという竹で作ったものさしで正月飾りの種類別に位置を厳密に定めます。 

整理した稲藁は、屋外で木づちで100回位を目安に丹念に叩いて柔らかく潰します。潰した箇所がのちほど、手でよって縄にする部分となります。

1本の木を切り出して作られた木槌は島の大工さん謹製です。

100回叩く。これを1つ1つ、ハサミで余分な葉やケバなどをとって整理します。芯をぬいて藁が使いやすく整った状態

3.藁をない、飾りのパーツを作る

「藁をなう」とは、二束の藁を掌(てのひら)でより合わせ、一本の縄に編む伝統技術です。ただの藁が神様を迎える縄へと変わります。

大飾り、小飾りなど、用途に合わせて、パーツを作っていきます。より合わせる藁の本数は15本ずつ、30本ずつなど用途に合わせて決まっています。

ゆるまないよう、つどつど締め付けながら仕上げていきます。動画で熟練の技をご覧ください。

簡単そうに見えますが、大変技術がいる作業です。濡れた藁を長時間手のひらでこすり合わせるので、手のひらが傷んでしまいます。


できたパーツは飾る場所別に分類して整理しておきます。

400個以上作ります

4.人形(ひとがた)を作る

式根島及び新島の正月飾りには、折りたたんだ紙垂(しで)ではなく、白い奉書紙を木型を用いて切り抜いて作った人形(ひとがた)を使います。

この人形はこの地域の正月飾りに対する思いの象徴です。

一般的に人形というと、厄除けの形代(かたしろ=身代わり)として用いられますが、式根島及び新島の捉え方は違います。

式根島及び新島の人形は、夫婦や親子など家族の姿に見立てられています。家族が常に仲良く、円満に過ごせるようにという願いをこめて、その姿を「形」にして飾ります。

温かな思いが込められた縁起物であり、切り込みは奇数の3つと決まっています。

この直線的な人形を用いた正月飾りが、形状的にも独自の姿を特徴づけています。

5.橙(ダイダイ)を取り寄せる

橙(ダイダイ)は、式根島でも採れますが、かなりの数を年末に合わせて、確実に揃えなければいけないので、取り寄せています。

蒸れないように箱をあけて、鮮度よく管理します。

正月飾りのパーツを組み合わせて完成させる

いよいよ年末になりました。

12月28日、30日が正月飾り(特に大飾り)に適した日です。29日が「二重の苦」、31日は「1日飾り」になるので、飾れません。どこにいくつ飾るのかを定めたメモを確認しながら、1ヶ月以上かけて作ったパーツを組んで一気に仕上げていきます。

こちらは、最も重要な式根島唯一の神社「泊神社」の表鳥居につける正月飾りです。

ゆずり葉は半分に畳み、その前面に細い笹竹を突き通した橙(ダイダイ)をあしらいます。のちほど飾りを掛けるのに必要となる糸を結んでおきます。いずれも細やかな作業になります。

その他の飾りも、どんどん組んでいきます。正月飾りを飾る場所は、島内の神社・祠の全て、寺、仏壇、自宅、関係が深い島民の家や船です。仏壇の仏様が代々栄えては困るので、こちらは橙(ダイダイ)をつけません。

いよいよ飾り付け

飾り付けも名人一人で行います。年末、式根島で最も忙しい人かもしれません。

松を採りに行く

正月に欠かせない松は式根島にたくさん生えています。飾ったときにバランスがよくなるよう、3つに分かれた枝先を採ります。

各所に飾られた正月飾り

式根島の中核となる泊神社と東要寺の正月飾りです。

一般家庭の飾り付けです。

大飾りなどは年開けの1月4日に外し、神社に納めてお焚きあげをしてもらいます。年縄は節分まで付けて置き、節分の次の日に外して同じく神社に納めます。

今はたった一人で作っている正月飾りですが、「やってみたい」という若い世代が出てきたそう。

また、名人は文化継承のため、毎年12月にゲストティーチャーとして式根島小学校に出向き、こどもたちに正月飾りの作り方を教えています。

式根島ならではの正月飾りの文化がいつまでも続いていきますように。