式根島は40年ほど前に「男はつらいよ」のロケ地になりました。劇中では往時の式根島の姿や船、エキストラ出演の島民が多数登場します。これからいらっしゃる方は、事前に鑑賞いただくことで、ロケ地の聖地巡礼&タイムスリップ感を楽しむことができます。来島済みの方は式根島旅の余韻が深まります!
映画「男はつらいよ」とは
松竹映画「男はつらいよ(監督/山田洋次)」は、1969年に第1作が公開されてから1995年の最終作まで、四半世紀以上にわたり愛され続けた国民的映画です。渥美清演じる風来坊なテキ屋「寅さん」こと車寅次郎が、各地で美しいマドンナに惚れて騒動を起こし、やがて失恋して故郷の柴又とらやを旅立つパターンを繰り返します。
高度経済成長期からバブル経済、そしてその崩壊へと急速に変化する昭和から平成初期の社会情勢や風俗を背景に、失われつつあった古き良き日本の人情と旅先の風景が丁寧に描かれています。寅さんが行く先々で出会う人々とのユーモラスな交流、学はなくとも義理人情に厚く、人間味あふれる寅さんの人柄、いつでも温かく寅さんを迎える故郷・柴又の実家「とらや」の情景が、観る人に笑いと涙、そして、心温かな感動を与えました。
第36作「男はつらいよ 柴又より愛をこめて」あらすじ
あらすじ
1985年12月28日に公開された第36作「男はつらいよ 柴又より愛をこめて」。
寅さんの実家・柴又にあるとらやに隣接する印刷工場のタコ社長の娘・あけみ(美保純)は結婚していたが、失踪して、はや1か月ほどとなる。タコ社長がTVに出て呼びかけたことから、本人から電話があり、下田にいることはわかった。そこに戻ってきた寅さんが連れ戻し役を引き受け、下田に行き、昔の仲間のつてであけみを見つける。そして、帰る気にならないあけみと寅さんは、下田から見えた式根島に神新汽船で渡ることになった。その船中で意気投合したのが式根島出身の若者たち。そして、彼らの恩師である式根島の美しい女教師・マチコ先生に恋をした寅さんは、すっかり夢中になって、あけみをほったらかしにする。一方、あけみは式根島の旅館の息子に島内を案内されるうちに惚れられ、求婚されてしまう。かくあって、2人は柴又に戻ることになるが…。素朴な自然美にあふれる往時の式根島の情景が胸に迫る名作。
山田監督「演出のことば」
久々に、ほんとうに久しぶりに、寅さんは恋をする。それも、ほのかな恋や、しっとりした恋ではなく、炎となって燃えあがるような熱い恋なのである。
引用:松竹+ 男はつらいよ 柴又より愛をこめて(第36作)作品情報
島内ロケ地一覧
公開から早40年の月日を超えて、今もなお、式根島は「男はつらいよ」の舞台となったことで知られています。2025年に発売されたロケ地ガイドブック「日本の映画の舞台&ロケ地100」にも掲載されています。
映画の舞台となった式根島各所をご紹介します。
足付桟橋(式根島港)

「あなた…誰だったかしら?」
「はい!寅ちゃんです!」
同窓会のために集まった式根島小学校卒業生の一団に加わって、到着した式根島港でマチコ先生と初対面する寅さん。あまりの美しさに当然、即座に恋に落ちる。
泊浦

「昔、八丈に流される流人の船は、必ずこの入江に立ち寄って一休みしたんだって。」
島の青年が、あけみにきれいな場所を見せようと連れてきたのが泊浦。あけみは式根島の美しさに気づいて感動する。
地鉈温泉

式根館

野伏港にしき乗り場

「はぁ…行っちゃった」
連絡船にしきで新島に向かい、乗り継いで帰る教え子たちを、寅さんと見送った寂しそうなマチコ先生。
野伏港近くの坂道

「船の別れって切ないものね。こうして何十回子どもたち見送ったかしら。子どもだけでないわ。同僚の先生だったり、おまわりさんだったり、子どもの親だったり。」
野伏港から集落をつなぐ、つづら折りの坂道で、寅さんに心情や身の上を語るマチコ先生。
大浦海岸

神引展望台

おくやまの電話ボックス

「この島気に入ってるみたいなんだもん…理由?私の口からは申せませんっ!」
とらやに電話をして帰ることを告げたあけみに「寅さんは島から帰らないかも」と聞いて驚くさくら。理由を聞かれても、まさか「寅さんは美人の先生に夢中」とは言えず、はぐらかすあけみ。
式根島小学校

「先生に一言だけごあいさつを、と思いまして。どうぞ、先生もお元気で。」
式根島を去ることになった寅さんが、授業中のマチコ先生を訪ねて別れの挨拶を告げる。
その他のロケ地



ゆかりの場所
菊水旅館

唐人津城

下田から見た式根島

「あたしねぇ、さっきから思ってたんだけど、あの島行ってみたい!」「あぁいいよ!行ってやろうじゃないの」
下田の入田浜で寅さんとあけみは、海の向こうに見える島に行くことにする。
調布飛行場とプロペラ機

「ただ、お話の様子じゃ、その男の人は、きっといい人ですよ」
柴又から式根島に帰るマチコ先生を見送る調布飛行場で、マチコ先生に死んだ親友の旦那にプロポーズを受けたと相談され、失恋が決定する寅さん
余話
第36作公開の11年後の1996年に、寅さんを演じた渥美清(本名:田所康雄)さんが亡くなられました。残した手帳の最後のページに、式根島について書いた一文の記事があったことが知られています。式根島への思いが伝わってきます。
《伊豆の式根島、/ロケ先菊水旅館は7年前に/行ったところへ/仕事じゃなくて、ゆっくりしたいな/家族とぎょうさん(親交のあった脚本家・早坂暁さんか)にも……/声かけて一緒に行こう。/正子健康が一番だぞ/健太郎 幸恵も頑張れ、/(康雄)》
引用:週刊女性PRIME「寅さん50作目!渥美清さん「病の葛藤」「家族へのエール」を綴っていた“遺書”」
トリビア
- 公開年の翌年1986年は式根島開島100周年の節目であり、記念事業として式根島から呼びかけ、ロケ地に選ばれた。大いに盛り上がり、島をあげて協力を惜しまなかった
- 「二十四の瞳」のオマージュ作品となっている
- 初代さるびあ丸、初代にしき、あじさい丸(今のあぜりあ丸の航路)が登場する
- 船の大型化に伴い、廃止された式根島港(足付桟橋)に初代さるびあ丸が発着している
- 野伏港は当時、工事中で、赤灯台もなかった
- さるびあ丸への荷物の積み込みにコンテナの姿が見えない
- 郵便局員と島民が野伏港付近の坂道で見ている魚は、メジナとハチビキ。いずれも大型。
- こどもが手にしている釣りの仕掛けは投げサビキ
- 劇中、野伏港付近の坂道の壁に、「マチコ先生」と落書きされている
- 島の青年役を演じた田中隆三は、映画「二十四の瞳」で先生役を演じた田中裕子の実弟である