式根島でハイキングをしたり、釣り師が磯に降りようと草地をかき分けて歩くとき、農作業をするとき、野外で座る時に注意しなくてはいけないことがあります。今回は伊豆諸島の風土病であるツツガムシ感染症(七島熱)のお話しをします。ツツガムシ生息域である伊豆諸島の島旅を楽しむ人は、知識として必ず知っておきましょう。
ツツガムシとは

ツツガムシとは、幼虫 0.2 〜 0.5mm、成虫2mm程度の非常に小さなダニの一種で、ツツガムシ病という感染症を媒介することで知られています。日本には120種類以上が野山に生息し、そのなかでも伊豆諸島は新型ツツガムシ病を媒介するタテツツガムシやフトゲツツガムシによる被害が発生しています。特に春から初夏、秋から冬に活動が活発になります。
※昨今の気候変動などの影響もあり、他の時期のリスクは0とは言えません。
ツツガムシ感染症(七島熱)とは
ツツガムシ感染症は、病原体を持ったツツガムシ幼虫に吸着されることにより発症します。
死に至る病と恐れられていた「古典型ツツガムシ病」が知られていますが、こちらは発生数が著しく減少しており、原因となるアカツツガムシは北日本に限定され、ほとんど症例が見られなくなっています。伊豆諸島で発生しているのは、フトゲツツガムシ、タテツツガムシによる症状が比較的軽度の「新型ツツガムシ病」です。
ツツガムシ病の感染経路
病源体は、ツツガムシ病リケッチア(細胞内でのみ増殖可能な偏性細胞内寄生細菌の1つであるOrientia tsutsugamushi)です。リケッチアを保有した有毒なツツガムシの幼虫に吸着されることによって感染し、ツツガムシ病を発症します。ヒトからヒトへうつることはありません。
なお、ツツガムシの成虫は土の中で生活しており、ヒトに吸着するのは、卵からかえって地表に出てきた幼虫のみです。普段は主にネズミをターゲットにし、成虫になる栄養を蓄えるため、生涯に一度吸着すると言われています。なお、リケッチアを保有する有毒なツツガムシの割合は0.1%~3%なので、残りの無毒なツツガムシに刺されても「感染しない」ということになります。
基本的に、ツツガムシ感染症は、農作業や林業、山菜採り、登山やハイキング、キャンプやBBQ、釣りなどの野外活動で感染する病気です。

式根島の遊歩道は、比較的安全ですが、注意をするにこしたことはありません。
発生状況
届け出があったツツガムシ感染症の発生件数は、毎年日本全国で400件~500件。東京都では5件~22件となっています。式根島でも毎年のように被害が報告されており、身近な感染症です。
ツツガムシ病の症状
ツツガムシは身体の柔らかい部分(わきの下や横っ腹、股間、内もも、膝の裏など)を狙って、吸着しますが、この時、痛みやかゆみを感じません。ツツガムシは2~3日かけて、ゆっくりとヒトの体液を吸い、その後体表を離れて、土に潜って成虫になります。吸着した刺し口は、5日から14日くらいの潜伏期間を経て赤身を帯びた水疱となり、1cm位の特徴的な黒い大きなかさぶたになります。このころ、全身倦怠感や発疹、38℃を超える熱が比較的長く続き、頭痛や関節痛、リンパ節がはれて異変に気付きます。
ツツガムシ病の診断と治療
ツツガムシ病は、刺し口の有無や症状などに基づいた医師による所見、流行地の野山に行ったかなどの行動歴、検査結果から診断されます。重要なのは、なるべく早期にツツガムシ病を疑い、有効な抗菌薬(第一選択薬はテトラサイクリン系)の治療を開始することです。適切な治療が行われれば3日ほどで軽快します。
そのためにも、流行地(式根島や伊豆諸島など)の山林、草地に入ったあと、しばらくして風邪のような発熱や倦怠感、発疹などの症状が現れたら、自分で身体を点検して刺し口を見つけ、病院(内科や皮膚科)に行って、行動歴と刺し口を伝えて、診断を受けてください。
※式根島や伊豆諸島の診療所は、ツツガムシの知識があるので、山に入った、藪をかきわけた、地面に座ったと話せば、ピンときます。
風邪と勘違いしたり、免疫が低下している高齢者などは、症状に気づかず放置してしまうことがあります。治療が遅れれば、重症化して多臓器不全や意識障害、全身の血管に血栓ができる播種性血管内凝固を起こして、死に至ることもあります。
ツツガムシ病の予防方法
- 野山や畑では長袖長ズボン、手袋、首にタオルなどを着用し肌を露出しない
- ハイキングでは遊歩道から外れない
- 藪やブッシュのなかに入らない
- 野外で用を足さない
- 地面に座らない、寝転ばない
- 地面にタオルやハンカチ、バッグ、上着を直接置かない
- 帰宅したら入浴して、くまなく身体を洗ってツツガムシを洗い流す
- 入浴時に刺し口がないか点検する
- 帰宅したら着ていた衣服をすぐ洗濯する(同居家族の衣服にうつさない)
- ディートを高濃度(30%)含むダニ忌避剤・虫除け剤を使用する
上記商品は12歳以下には使用できませんので、お子様はイカリジン15%の虫よけで対応してください。
式根島でツツガムシに刺された体験談
最後に式根島でツツガムシに刺されたAさんの体験談を紹介します。特徴的な黒いかさぶたの刺し口は見つかったものの、幸い無症状で推移しました。
GWの頃、AさんはTシャツに薄手のパンツで、磯に降りるルート脇の林地に入り、少し湿った地面にひざをつきました。その後、痛みもかゆみもないので普通に過ごしてしましたが、1週間くらいして、ひざの下あたりに黒くて丸い1センチくらいのかさぶたがあることに気づきました。押しても特に痛いということはなかったので、そのまま放置したところ、やがて、かさぶたが剥がれて、少し跡が残る程度になりました。その後、伊豆諸島のツツガムシの情報に触れ、流行地であること、特徴的な刺し口の2点から、まさにツツガムシだろうということになりました。地面にひざをついたときに、呼気で動物の気配を察した極小(0.2mm~)のツツガムシが薄手パンツの繊維の隙間から侵入したものと思われます。
無症状で済んだのは、Aさんは、たまたま別の病気で抗生物質を連続投与していたことが関係しているのかもしれません。この話を聞いた島民が「Tシャツや短パンで山に入るのやめよ…」と、あらためてぶるってましたので、やはり式根島にツツガムシはおります。
