
時は3月、春分の頃。私は冬の間は伊豆大島で釣り修行をし、式根島には4か月ぶりに、重要な使命を背負って戻ってきました。その使命の説明は、昨年の秋に遡ります。
私は連休に泊まる式根島の宿を探していました。「自炊」を条件に、ピックアップした宿の情報をSNSでチェックしていると、偶然にも知人の数年前のつぶやきを見つけました。
「ひだぶんさんには、昔、ずっと行っていたけど、すっかりご無沙汰になってしまった。食事も出ないようだし、雰囲気が変わって若い人中心の宿になったようだ。仕事も落ち着いてきたし、大好きな式根島にまた行きたいが、新しい宿を探さねばならない…。」
なんとも哀し気にボヤいております。
なるほど。
私は知人に声をかけ、
「来月、私がひだぶんさんに泊って、実際のところがどうなのか、この目で見てみますよ。なんなら覚えているか、聞いてきてあげます。」
と、約束しました。
そして、私は、前回、式根島に来たときに、世話になった方の竿を折るだけでなく、きちんと、このミッションを遂行し、女将さんに「知人について覚えていますか?」と尋ねていたのです。
「えー忘れるわけないじゃないですか!ひだぶんは何も変わってませんよ!会いたいですー。じぃもばぁも喜びます!」
「じゃあ、私が連れてきますよ!」
「ほんとですかー!」
聞けば、知人が最初に式根島に訪れたのは約30年前。時には毎月訪れた年も合わせて10年間もひだぶんに通い、二人とも、当時は…いえ今も、女ざかりの同年代。美味しいものとお酒好きで気が合って、窺い知れない絆ができたのでしょう。
20年ぶりの再会
というわけで、今回はその知人を伴って、一度切れた縁を結びなおすために式根島を訪れたのでした。無事に着岸して、知人と女将さんは、「お互い年をとったわねー」と抱き合って喜ぶ感動の再会です。
その光景を見て、私もご満悦です。
「我ながらよいことをしたな~。きっと式根の神様が魚をたくさん恵んでくださるに違いない。」
そうと決まれば(?)さっさと釣りに行くことにしました。
デカサバフィーバー
さて、いつも通り、桟橋で釣りを始めたわけですが、どうも様子が違って、非常に場違いな感じです。
実は、この年は鰯の大群を追いかけてきたキハダマグロが式根島と新島のあいだに居ついてしまうという珍事「マグロフィーバー」に湧いていました。夢を抱いたルアーマンが連日、桟橋に立ち並び、朝からひたすらマグロめがけてバカでかいルアーやポッパーを投げていたのです。
邪魔をしても悪いし、できれば、もう一つの桟橋でやりたいのですが、そちらは閉まっていて他に行くところもなく、なるべく離れて、我一人、背中丸めて底釣りです。
やがて、ドラマが起こり、(略)
狙っていた魚のあたりが全くなくなってしまいました!
そこで、私はカゴ釣りに切り替え、離れてカゴを投げていると、50cmはあろうかという、カツオサイズのデカサバが、いくらでもかかります。これは、確変発動デカサバフィーバーです。最初はいそいそタモ入れをしていましたが、すぐ面倒になって磯竿5号で抜き上げまくったので、傍目にも土佐のカツオ一本釣りになってしまいました。

他に釣れたのは、でかいムロアジと青いものだけ。いまひとつな思いを抱えて、1日目の釣りを終了しました。

翌2日目は35cmくらいのイシガキダイがとれたので、まあいいかという感じです。

春の式根は、気候も穏やかで、どこかのんびりとし、今回も楽しい釣行となりました。
そして、我々は、毎晩、思い出話をする酒盛り お食事会を繰り広げ、特に最後の晩は、ガバガバとワインを飲み続け、当然ワインは空になり、そのあたりからだいぶ怪しくなって、遠い記憶の片隅に島焼酎の瓶が
略
今日も元気だ、ワシだけ飯がうまい
最終日は、のんびり起きて、船に乗る前にサンバレーでねぎとりラーメンを食べるのを楽しみにしてしました。深酒の翌日の塩分サイコー!!
約束していた知人に声をかけると、見るからに血の気がひいています。
「あの…昨晩、少し飲み過ぎたようで気分が…」
「あーそうなんですね!ラーメン食べれば治・」
「今は、わたしの前で食べる、飲むというお話は遠慮でお願いします!」
…これは重症です。
まあ、休めば午後には治るじゃろ。一人で行ってくるかあ~と気軽にサンバレーをキメました。

緊迫
東京へ向かうさるびあ丸も着岸し、再度の別れの時がやってきました。女将さんも野伏港にお見送りに来ているわけですし、本来なら、知人と手を握り合って再会を誓い合うシーンのはずが、どうにも、知人はぐんなりしており、完全に魂が抜けています。私が荷物を持ち、みんなが見守る中、知人は、そのまま後ろも振り返らずに、よろよろ、さるびあ丸に乗り込んで、二等和室で倒れこむように寝込んでしまいました。
私は、帰りの船でもビールでもガバガバ飲んでおしゃべりしようと思っていたけど、それどころではありません。
そして、さっきから気になっていたのですが、どうも知人は水を飲んでいません。
私などは、若かりし頃、「飲んだら死ぬほど水を飲め、翌日は梅干しと水をがぶ飲みすれば、午後にはなんとかなる」と職場の先輩に教えられ、いやっちゅうほど、履修したものです。それを伝えて、水を飲むように促しますが、どうにも入らず、300mlくらいがやっとの様子。もはや二日酔いではなく、脱水ではなく、電解質異常に発展しそうです。
私は上級救命講習や登山を通して、応急手当の知識が多少あったので、とにかく手持ちの塩をリンゴジュースにまぜ、水で薄めたものを飲んでいただこうとしました。しかし、既に手の施しようなく、竹芝港に着くころには、知人は完全にノックアウトしてしまいました。結局「どう考えても一人で家に帰れないので、病院に行きましょう」ということになり、東海汽船に相談すると、きちんと血中酸素などをはかったうえで救急車を呼んでくれました。
大勢の救急隊員が乗り込んできて、一気に騒然とした雰囲気。もう、完全に事件現場です。
「付き添いますか?」と聞かれたので、私は力強く頷き、「こちらへどうぞ」と促されるままに、二人分の荷物をもって、青息吐息の知人が運ばれていくタンカについていきました。乗客とは違う出口から下船すると、救急車が既に横付けされていました。
「なるほど、救急用の搬送口というのがあるのか!式根島訪島5回目にして、とうとうこの日が来たなあ~」という感慨と釣竿とクーラーボックスを抱えて、私は救急車に乗り込みました。狭い車内で立ち働く救急隊員の皆様、あのときは大変邪魔くさく、魚くさくて本当にすみませんでした。
その後、搬送先の病院で、輸液補正をかけてもらった知人は、わりとあっさりと復調を果たしました。私はタクシーに同乗して知人を送り届け、やっと自宅に着いた時には2時を回っておりました。こうして、(体感で)いちばん長い式根の旅が終わりました。
皆様も島の旅の夜。どんなに楽しくても、お酒をお過ごしになりませんよう、お気をつけください。以上。
追伸1:懐が深い当人の掲載許可済み
追伸2:この伝説に関することは一切口を割りませんので、あしからず。
追伸3:別件で、宴会終了後、果敢に後片付けをはじめ、洗った皿をトースターに入れて『この方が早く乾く』と言いながらスイッチを押そうとする人 酔っ払いも確認されました。
酸いも甘いも噛み分けた立派な大人が揃いも揃って、コマッタモノデスネ-。
思い出ギャラリー


今回釣った魚
ウツボ、シラコダイ、スズメダイ(知人)、ゴマサバ ムロアジ カサゴ(知人) イシガキダイ
↑黄色は食べやすく美味しい魚(当社比)
今回のお料理(2泊分)






・カサゴのポアレ
・ゴマサバのマスタードエチュベ
・イシガキダイのカルパッチョ
・頂いたマグロのカルパッチョ
・ムロアジのタタキ
・ゴマサバとムール貝のトマトペンネ
調理のポイント
[持参したもの]
・パックのネギみじん切り ・生姜 ・スプレータイプのオリーブオイル ・人参 ・トマト水煮パック ・オリーブ ・茹でムール貝(釣りエサとも言う)・バター ・岩塩 ・レモン ・マスタード ・セロリ ・紫玉ねぎ ・アンディーブ ・紫かいわれネギ ・イタリアンパセリ ・パプリカ ・ミニトマト
※野菜は必要な分量をカットしてジップロックで持参
[現地調達]
調味料、パックごはん
[工夫とポイント]
・野菜をカットしたり、茹でて、ジップ付き袋で持参すると時短になる
・薬味パックがあれば、なめろうや茶漬けに便利
・マスタードやバターはジップ付き小袋に入れて小分けにする
・紫かいわれはカルパッチョがバエる!
・ゴマサバはイタリアンにすると使い勝手良し!
よりぬきレシピ
書いた人

こんにちは。私は、「自分で釣った魚で料理を作って、美味しいお酒を飲むため」に式根島に通っています。この「今宵もしきねでバエパッチョ」が式根で釣りをやってみるきっかけになったり、自炊民の多少の参考になれば幸いです。