
[前編]ウツボプロと呼ばれて
待ちに待った2025年大型連休の幕開けです。今年は11連休の全てを式根島にぶっこんで、晴天のもと、意気揚々と入島です。

釣り物が多いこの時期。宿は若者釣り師で賑わっていました。すっかりおなじみの凄腕釣り師くんたちもおり、釣り談義に花が咲いています。
VS ウツボ:第一戦目
さて、今回の私には重要なミッションがあります。
それは、担当する食材を自らゲットして、数カ月前から開発を進めていた「式根懐石」を完成することです。
さっそく竿を出したところ、見事、狙い通りにお目当てをキャッチ。その食材とは・・
ジャーン。

強いタックルで底の魚を狙う釣り師の天敵・ウツボ。
今までにウツボと100回を超えるバトルを繰り返し、島有数のウツボ釣り名人と化した私にかかれば、大・中・小、松・竹・梅と釣り分けることくらいお安い御用です。
冗談はさておき、早々に宿に戻って、この日のために用意した特殊包丁「頭おとし」で、ウツボをさばいていきます。
今までも何度かウツボをさばいた経験はありますが、今回はガチで正しい手順を覚えて、完全に骨を抜かなくてはいけません。幸い、道具がいいからか、事前の動画予習が効いたのか、一発でうまくいきました。

柵にしたウツボは蒸してから冷水にとって身を締め、薬味と柑橘(式根島でとれたダイダイ)を添えました。高知県の郷土料理「うつぼのたたき」です。ひだぶんスタッフの山ちゃんは本場の味を食べてますから、評価を頂くと、甲乙つけがたいレベルのようです。

確かに、みんなで試食したところ、想像以上のおいしさでした。私はウツボのゼラチン質っぽいプルプル感が得意ではないのですが、これなら問題ありません。
VS ウツボ:第二戦目
日を改めて、次はもう少し大きいウツボを狙います。

まあ、これならいいでしょう。
ところで、式根島ではウツボを食べる食文化があります。
ひだぶんで亡くなったジィの漁具を整理したら、魚の習性を利用した誘引陥穽漁具のウツボカゴがたくさん出てきました。今は、ウツボを好んで食べる人は少ないけど、昔はウツボを「うなぎ」と呼んで、干物にしたり、くさやにしたそうです。なお、ウツボの色は「黄色ければ黄色いほどうまい」と言われています。
このウツボは、かなり黄色いので、「上物のうなぎ」ということになります。
ウツボをおいしく食べるには、しっかり血抜きをするのがポイントです。
私は桟橋で、血抜きついでに、危険な頭を工具用ハサミで切り落そうとしましたが、なかなかうまくいきません。同宿の釣り師に手伝ってもらいながら、なんとか処理を済ませました。その際に、大量のウツボの血のにおいを嗅いだせいか、クラクラして気分が悪くなってしまいました。これ以上、釣りをする気にもなれませんので、すぐに宿に持ち帰って、さっそく外流しで巨大ウツボのさばきに取り掛かりました。

持ち帰ったウツボは、まず、大量の塩とたわしで表面をよくこすって、汚れやぬめりを落としてやります。次に腹を開いて内臓をとり、血合いをよくこすり、水分をふきとります。ここまでが下処理です。
ウツボは悪食(あくじき)ですが、その身に生臭みはなく、さばいていても腹腔がきれいです。ただ、血の臭いが強く私は鼻につきます。
ウツボのツワリ事件
実はこの時、私は、桟橋から続いていた吐き気とめまいが悪化して、とうとう意識朦朧となっていました。犬が吠えるような響く咳も止まりません。さすがにヤバさを感じつつも、ウツボを放りだせないので、なんとか最後まで気合いでやり抜きました。
呼吸も浅くなり、ぐったりしながらも、下処理したウツボの身をひだぶんの台所に持ち込んで、冷蔵庫に入れることができました。その様子を見た、ひだぶんメンバーが揃って驚いています。
心配かけまいと、私はえずきながら「なんだかウツボの血の臭い嗅いでたらツワリになっちゃった」と精一杯の冗談を言うと、一同、困ったような顔をしています(そりゃそうだ)。
ひとまず、部屋に戻って休もうとしましたが、急に強く「シャワーを浴びて、このにおいを洗い流したい」と思いました。今でも不思議ですが、生存本能なのでしょう。
私は最低限の風呂道具をもって、ひだぶんのシャワー室になだれこむと、そのまま床に倒れました。それでも、なんとか水栓を開けて頭の上からお湯をかけて全身を洗い流すと、急に呼吸が楽になり、意識もしっかりしてきました。15分くらいが経過したでしょうか。これなら大丈夫そうです。
めげずにウツボ料理の試作
自分でもわが身に起こった異変に不安になりつつも、少し休んでから、奮い立って、ウツボ料理の試作を続けました。
Y字の背骨、両ヒレ部分の骨、両方の隠し中骨の5か所の骨抜きをしたウツボは、冷蔵庫で冷気に当てながら脱水をするのが美味しく食べるポイントです。陰干しでもいいと思います。

その晩は、すでに脱水がしてある前回のウツボで唐揚げを作りました。ウツボの唐揚げは色々なやり方がありますが、私は塩と胡椒をまぶして片栗粉で揚げただけのシンプルなものが好みです。ウツボはしっかり処理ができていれば癖がなく、この方が素材の味が引き立ちます。

VS ウツボ:第三戦目
大きいウツボはだいぶ手に入ったので、今度は小さめのウツボの食味を確かめたいです。日の出とともに野伏港へ。

さすが、GW。早朝5時というのに、釣り師でにぎわっています。本来なら石鯛、イシガキダイあたりを狙いたいのですが、仕方ありません。

ちょうどいいのが獲れました。ちなみにウツボは成長すると長さは1.2mくらいで止まり、胴回りが太くなっていくように思います。このウツボは長さはそこそこありますが、胴回りが細いので若いウツボでしょう。
黒っぽいので式根島でいう「上物」ではありませんが、ヨシとします。
これにて、必要なウツボが揃いました。明日の「式根島懐石」本番に臨みます。
余談:私の暫定NO.1ウツボ
ちなみに私が釣った今までで一番大きなウツボは伊豆大島で獲りました。
大型客船が着岸する離島の車止めの幅は25cmくらい。横から見た一番太い胴がそれくらいなので、体周は60cmくらいでしょうか。ギャラリーから「主だ!」という声が上がったほどの迫力でした。


よく聞かれるウツボのさばき方
とにかく、切れる包丁がないとどうにもなりません。ウツボは骨格の構造が特殊なので、ぶっつけ本番よりは、きちんと動画などで理解してから挑戦するといいと思います。
特に難しいのは、目で見えないところに入っている骨です。私は、骨が多い尾については肛門から5~10㎝くらいで切り落として食べません。
式根島のたけんことふきんとう
とある日の昼下がり。ひだぶんに1人の島民がやってきました。軽トラの荷台には細いタケノコが山盛りになっています。私は毎年、長野県でネマガリタケを採っていますから、興味を持って近寄ると、女将さんもやってきて「うわーありがとう!嬉しい!!」と喜んでいます。細いタケノコを持ってきた島民は、どうやら式根島一番の山菜採り名人のようで、女将さんは「ふきんとうも欲しいんだけどー」とリクエストをしました。
「ふきんとうか!わかった!もってきてやる」
山菜取り名人は二つ返事で請け負いました。そして、その様子を見ていた私と山菜採り名人の目が合い、「暇だな!ついてきて」と声を掛けられました。暇といえば暇、忙しいといえば忙しいのですが、面白そうなので私は二つ返事でついていくことにしました。
なお、式根島でいう「ふきんとう」は蕗の薹ではなく「ツワブキ」のことです。

ツワブキは本土では甘辛く煮つけた「きゃらぶき」にしますが、新芽はふっくらと太く、やわらかで、筋張った印象のきゃらぶきと大違いです。
さて、山菜名人の狩場に到着し、「ふきんとうは、産毛が生えている柔らかい新芽をとるのだ。」と実際に、摘みながら教えてくれました。私は躊躇なく山の斜面に膝をつけて這いつくばり、教わったとおりに次々と新芽を摘んで束にしました。その様子を見ていた名人に「私は島に来ないときは、毎週山に入るんですよ」といったら「なるほど、慣れてるな!」と感心してくれました。
一抱えもとって、ひだぶんに持ち帰ると、女将さんは、「熱湯をかけて、皮をむけば、すぐ料理できるのよ」と教えてくれました。指先をふきんとうのアクで黒く染めながら皮むきしたふきんとうを、干した岩海苔やハバノリと薄めの甘辛口で炒め煮するのが、式根島の春の郷土料理です。

とても楽しい、ふきんとう採りでしたが、数日して私の膝には、1cmくらいの黒くて丸いかさぶたができました。

………???
この膝の黒丸とウツボのツワリ事件の謎も、後編へ続くのであった(意味深)
思い出ギャラリー



今回釣った魚



カサゴ アカハタ ウツボ スズメダイ
↑黄色は食べやすく美味しい魚(当社比)
今回のお料理





よりぬきレシピ
書いた人

こんにちは。私は、「自分で釣った魚で料理を作って、美味しいお酒を飲むため」に式根島に通っています。この「今宵もしきねでバエパッチョ」が式根で釣りをやってみるきっかけになったり、自炊民の多少の参考になれば幸いです。
