
[GW後編]式根懐石
さて、とうとう式根懐石の本番です。
ところが困ったことが起きました。連日の時化模様で、式根島の漁師はまったく船が出せず、式根島だというのに鮮魚がないのです。私担当のウツボは、ばっちり釣りきりましたが、ウツボ懐石にするわけにはいきません。女将と困り果てていると、常連釣り師くんたちが「イサキなら、僕らでいくらでも釣ってこれますけどいりますか?」と申し出てくれました。まさに救いの神です。ありがたくお願いし、そのほかにも桟橋で魚をお持ちの方がいないか女将とカツアゲパトロールにいくことにしました。
釣り師で賑わう野伏桟橋。女将と一緒に、ファミリー客の水汲みバケツまで、1つ1つのぞき込んで歩きましたが、どれもこれも空っぽです。しかし、聞き込みの結果、移住者Iさんの弟さんがカンパチを釣ったという話が耳に入りました。すぐさま電話して一匹ゲット成功。さらに島の釣り名人に電話して本命タカベをゲット。さらに、ムロアジレディース(注:最近ムロアジ釣りにハマっている島の女将チーム)も「まかしといて!」と心強く胸を叩いてくれ、なんとかお魚を集めることができました。
当日。
目を覚ますと、玄関先にクーラーボックスが置いてありました。開けてみると、小判がザクザク・・ではなく、丸々太ったイサキやサバがザクザク入っています。そこに、夜通し奮闘した常連釣り師くんたちが帰ってきました。これまたたくさんの魚を持っています。「クーラーボックスがいっぱいになってしまったので、一度、夜中に置きに来たんです」。

そういえば姿を見ないなあと思っていた別の常連釣り師くんも、早朝に島民と船で釣りに出て立派なアカハタを持って帰ってきてくれました。

カメノテやタカセガイなど式根島の方言で言う「磯モン」も集まりました。これでなんとかなりそうです。

式根懐石
式根懐石の献立は一部変更になりましたが、だいたいこんな感じです。できるだけ、式根島の旬の食材、特産品を使い、代々伝わる式根島の郷土料理も登場します。味付けや調理法がかぶらないように配慮しながら緩急をつけ、飽きずに食べ進められるよう構成しています。
もっとも重要な「造り」は、中学時代から魚市場で包丁を覚えたプロ級の大学生バイト君が担当するので百人力です。

式根懐石
当日作った式根懐石の一部をご紹介。「お祝い煮物(おひら)」や「イカ飯」など、女将の式根島伝統料理も登場しました。
今の季節の式根島で食べられる海山の幸がずらりと並べることができ、調理チームも大満足です。








季節の野菜と真鯛のテリーヌは4度目にして文句無しの大成功。式根島の養殖真鯛「式根鯛平君」のアラでとった出汁をさらに煮詰めて濃厚なスープを作り、1つ1つ下味をつけた季節野菜や真鯛を寄せ固めたものです。見栄えだけではなく、真鯛の美味しさをぎゅっと詰め込み、季節の野菜と合わせて軽やかに頂く、といった趣向です。
式根島自慢の養殖真鯛「式根鯛平君の塩釜焼き」やウツボ料理も大いに場を盛り上げました。というわけで、式根懐石は大成功。
素材の調達が、想定外に苦労しましたが、島民はもちろん若い釣り師たちが、ひだぶんをバックアップしてくれたほか、予定をあわせて来島してくれたさばき名人大学生など、今回は、本当に優秀な若者たちに助けられました。
深夜のアカイカ
大仕事が終わったスタッフ一同で、お互いを労いながら、深夜まで飲んでいると、玄関が開く音がして、頭にタオルを巻いたおなじみの島民(移住中)が入ってきました。
「頑張ったけど2匹だけだったよ!」と、夜釣りの帰りにまだ生きているアカイカを持ってきてくれたのです。これは大変なご馳走です。さっそく、さばき名人大学生が呼子のイカ風の活造りを作ってくれました。透き通ったその身の美しさ!

多くの島民が「アカイカはなんといっても、釣りたてをすぐ食べるのが一番だ!」と言っていたのも納得です。本当の御馳走というのはこういうものでしょう。
ウツボのツワリと黒丸の謎
さて、前回の悲壮なウツボのツワリ事件と黒丸の謎についてお話ししたいと思います。
ウツボのツワリ事件
まず、ウツボのツワリの犯人は、おそらく式根島で「ハンノキ」と呼ばれるオオバヤシャブシで、この花粉アレルギーによるアナフィラキシーショックではないかと思われます。


発症は、おそらく島に入って2日目くらいに茅刈りを行った時です。近くにオオバヤシャブシの群生地があり、その花粉がたっぷり積もった茅を刈り取って胸に抱えて運ぶ作業を1時間ほどしました。このときに花粉を大量に吸い込んだことから発症したのでしょう。
もともと10日前にひいた風邪の咳症状が軽く残っている状態で来島していた経緯があります。症状は、ふいにひどい咳+咳き込み嘔吐が繰り返すもので、次第に発作が強くなっていきました。しまいには、呼吸困難に近いほどの咳き込み様で、咳も低く響くものに。その様子を見た人は驚くほどですが、自分では、花粉とは夢にも思わず、風邪の名残の咳症状が悪化したと思い込んでいました。
「ウツボのつわり」事件は、ひだぶんの外流しでウツボを捌いていたときに起こりました。おそらく風向きが悪く、裏山に生えているオオバヤシャブシの花粉が多く飛んできたのでしょう。それを思いっきり吸い込んでしまい、強度のアレルギー反応が出現。この時は、咳すら出ず、強い吐き気と意識朦朧、血圧低下。しかし、最後の力を振りしぼってシャワーを浴びたことから、花粉が落ちて発作がおさまり命を拾いました。このまま寝床にいっていたら、どうなったかわかりません。
登山でよく行く山域(標高1200mくらい)の同じ場所で、ある季節、全く同じように咳き込むことがあり、なんらかの強い花粉アレルギーがありそうだと自覚していました。今ならその木がオオバヤシャブシと同属の「ミヤマハンノキ」だろうと推定できます。素因があったところに、風邪(ウイルス感染)があり、運悪く咳喘息という形でアレルギーが出現、その後も暴露を続けたために重症化、といったところでしょう。
オオバヤシャブシもミヤマハンノキも、花粉症の原因となる「ハンノキ」の仲間ですが、そのなかでもオオバヤシャブシ属となります。このオオバヤシャブシのアレルギーは関西の方なら知っている方もいるかも知れませんが、特に食物アレルギーを伴う重篤な症状を発することが判明しています。広範に生息し、樹種も多いハンノキ科について、行政は未だに植林に使うなど花粉症を引き起こす樹種としての理解が追いついていません。伊豆諸島では、明日葉畑に木陰を作り、窒素を固定して肥料木となるハンノキを積極的に植樹してきた歴史があります。現在は、明日葉畑も減少し、用を終えているのですが、その時の名残のハンノキが大木となって島の各所に茂っております。強い食物アレルギーがある方や、ハンノキアレルギーがある方が、2月中旬から5月中旬あたりに来島する場合は、念の為、強い反応がでたときの用意をするといいかもしれません。
なお、私は、アレルギー専門医により、いざというときのためのエピペン(アナフィラキシー補助治療剤/自己注射薬)の処方をうけ、肌身放さず携帯しています。そして「2月半ば~5月中旬はオオバヤシャブシがある場所にいってはいけない」というありがたいご指導をいただいております。オオバヤシャブシの花粉は大きく、せいぜい風にのって飛ぶのは2km程度です。今後は群生地を避けて、屋外ではメガネマスクで完全防備し、外流しは使わず、室内に入る際は屋外シャワーで丸洗いして着替える対策を徹底してやり過ごそうと思いますがどうなることやら(物語は続く)
黒丸の謎

次に、山で地べたに這ったあと、膝にできた黒丸ですが、こちらはツツガムシに刺されたあとです。
幸い、ツツガムシ感染症の高熱がでるようなことはなく、無症状で終わりました。もっとも、免疫は生きるか死ぬかレベルでオオバヤシャブシの花粉と戦っていますから、こっちまで手が回らなかったのではという気もするわけですが無事で何よりです。
式根島のツツガムシについては、ノーマークの観光客が多いと思いますので、ひだぶんMAGAZINEの記事をぜひご覧ください。
このように振り返ってみれば、アナフィラキシーショックとツツガムシ病という、2つの死病がせめぎあう、とんでもないGWであったような気もしますが、どっこい元気でやっておりますので心配ありません。ただし、その後、完全に喘息患者になってしまいましたので、ステロイド吸入器は一生手放せないと思います。アレルギーは発症しないにこしたことがありませんので、くれぐれもご自愛ください。
思い出ギャラリー
女将姉妹と唐人津城にオオシマツツジのお花見ハイキングに行ってきました。お隣、天◯山と変わらぬ?景色が、式根島では徒歩15分の楽々モードでGETできます!



今回釣った魚

タカノハダイ
↑黄色は食べやすく美味しい魚(当社比)
今回のお料理
アオリイカが手に入ったので、アオリイカ料理多め






