式根島に未曽有の被害をもたらした台風15号

のちに令和元年房総半島台風と名付けられた台風15号は、2019年9月8日深夜から9日の未明にかけて、中心気圧955hPa・最大風速45m/sの「非常に強い」勢力で式根島を通過しました。新島村では最大瞬間風速52mを記録し、甚大な被害をもたらしました。その後、関東地方に上陸して猛威を振るい、激甚災害に指定されました。

式根島では家屋半壊や倒木、土砂崩れなど48件の被災報告があり、被害金額は1億5000万円。島民の拠り所の露天温泉施設「松ケ下雅湯」は高波が打ち寄せた無数の石で埋め尽くされ、脱衣所や電気施設まで破壊。足付温泉、地鉈温泉も揃って大被害となりました。

ひだぶんの家屋半壊被害と再建の決意

当時「漁師宿 ひだぶん」を名乗っていた当宿も免れず、未曽有の暴風雨に晒されて、2Fの屋根は飛び、轟音とともに室内に強風が舞い、雨水が1Fまで滝のように流れる被害を受けました。


ちょうどその頃の当宿の建物は、先代の両親が開業して8年後に火事になって建て替えてから40年が経過しており、大規模リフォームの時期を迎えていました。そのため、1Fと水回りの改装を計画していた矢先に起こった家屋半壊でした。恐ろしい思いはしましたが、幸い、家族は全員無事で、島内に死傷者が出なかったことが救いです。

島内はほぼ全員、被災者といった状況のなか、電気・水・インターネットというライフラインの途絶も起こりました。それでも日頃から共助(もやい)精神が根付き、多能工な島民たちですから、重機で倒木を片付け、道を開き、災害ゴミをまとめるなど主体的に動き、高齢者など助けが必要な方に声をかけながら、自ら復旧に努めました。本来ならオンシーズンの繁忙期だったはずの本業はストップ。島民同士でお互いの被災やこれからについて話をしたり、一緒にご飯を食べたり、お酒を飲むことで、落ち込まずに過ごせたように思います。

なんとか生活ができるようになったら、自宅兼民宿の建物の今後を考えなくてはいけません。

この大きな建物を全て壊して廃業し、自分は外に働きに行く選択肢もありました。しかし、私はやはり女将として式根島に訪れてくれる方をもてなして生きていきたいと思い、再建の決意をしました。

復旧・リニューアル工事

まず、新島村商工会の力を借りました。補助金の活用をおすすめいただき、様々な対象事業があるなかで、より、対応力をUPできるバリアフリー化をやりたいと思いました。式根島にはそれまで、バリアフリー対応の宿泊施設がなかったのです。そして、専門家との打ち合わせの結果、玄関や水回りの段差を解消し、仏間などがある昔ながらの和室4室で営業していた1Fをバリアフリー対応の洋室にリニューアルすることになりました。

工事については内地の建築会社の皆様に、長期間、親身に施工いただきました。

生まれ変わったゲストハウスひだぶん

1Fの建具は車いすの方でも開閉できる引き戸式に変え、足元の空間が大きく開いている洗面台を採用。トイレは車いすが旋回できる広々サイズで手すり付き。4つの洋室のうち1室はシャワー・トイレ・洗面台付客室にし、うち2室はつなげて広々とした1室でも利用できるよう取り外せる壁にしました。知恵を絞り抜いて、かなり幅広い層のお客様の受け入れができる宿になったと思います。

玄関の段差はスロープで解消

「雨降って地固まる」という言葉がありますが、「漁師宿ひだぶん」から「ゲストハウスひだぶん」に生まれ変わり、よりお客様にとって居心地がよい空間になることができました。

この台風による被災体験と、そこからの復活劇は当代女将の私にとって、生涯3本の指に確実に入る出来事になりました。伊豆諸島を襲う災害は台風だけではありません。地震や津波などの大規模な災害がまたいつくるかもしれません。慢心せず、地域の防災訓練などに積極的に関わりながら、日頃から災害に備えたいと思います。

同時に、このひだぶんMAGAZINEを通して来島者の皆様にも役立つ防災情報をわかりやすく提供することで、離島特有の防災知識の理解を促進し、正しく安心して式根島の滞在を楽しんでいただけましたら幸いです。

参考リンク