艶のある葉
柱頭は鉤型
托葉は深く切れ込む

スミレは分からなくても見ていて楽しい


日本在来のスミレは約60種あるといいます。どれも春に可愛らしい花を咲かせますが、花の形は互いによく似ていて、ぱっと見ただけではなかなか区別できません。同定するには、葉の形と色、地上茎の有無、托葉の形、花の色、柱頭(雌蕊先端)の形など、観察すべき形質がいくつもあります。「スミレは難しいから…」と尻込みする人もいるくらいです。

「でもスミレは分からなくても見るだけで楽しいからいいじゃないですか」とは、私の母校のある先生の台詞です。「イネ科なんか全然分からない上に、見ていてもさっぱり楽しくない」。私もこの先生に同感です(イネ科好きの方、ごめんなさい)。

ところでシチトウスミレの和名は最初Hichito-sumire(ヒチトウスミレ)でした。「しち」を「ひち」と言う地域は中部〜関西地方に多いようで、命名者の中井猛之進(岐阜県出身)にとっては「ヒチトウスミレ」の方が自然な発音だったのでしょう。現在は標準語的に「シチトウスミレ」と和名を表記されるようになりましたが、学名のスペルは変更できませんから、今なおhichitoana として「ひちとう」の発音を残しています。

和名シチトウスミレ
学名Viola grypoceras A.Gray var. hichitoana (Nakai) F.Maek.
分類スミレ科 Violaceae
大きさ高さ5〜10 cm程度。葉は長さ2〜4 cm
好む場所林縁や落葉樹の下の明るい草地
式根島で見られる場所島内いたるところの道沿い
分布伊豆半島南部、伊豆諸島

参考文献

安藤智子 多治見弁の部屋 単語集

http://tajimi-ben.jp/word.html (2025年5月17日閲覧)

いがりまさし(2004) 「シチトウスミレ」in『山渓ハンディ図鑑6 増補改定日本のスミレ』増補改定第2版(山と渓谷社)p.61.

門田裕一(2016) 「シチトウスミレ」「タチツボスミレ」in『改訂新版 日本の野生植物 3』平凡社 p.226.

Nakai, T. (1922)  Violae Novae Japonicae.  The Botanical Magazine, 36(423), pp. 29-39.

大場秀章・秋山忍(1996) 「東京大学植物標本室に関係した人々 六 中井猛之進」 in 『東京大学コレクションIV 日本植物研究の歴史 小石川植物園300年の歩み』(総合博物館特別展図録)

https://umdb.um.u-tokyo.ac.jp/DKankoub/Publish_db/1996Koishikawa300/06/0605.html (2025年5月17日閲覧)

米倉浩司・梶田忠 (2003-) BG Plants 和名-学名インデックス(YList),http://ylist.info(2025年5月17日閲覧)