
新島から昇る月
旅のはじまり
私は、さるびあ丸の出航を待つ竹芝で、ひだぶんスタッフのヤマちゃんを探していました。旅に出ていたヤマちゃんが、同じ便で式根島に戻ると聞いて、横浜から師匠連も乗ってくるし、みんなで船で「一杯やる」のもいいな、とお酒とつまみを揃えておいたのです。
はじまる旅の期待に弾む旅行客で賑わうなか、虚ろな目つきをした場違いな泥酔者がよろよろと近づいてきました。う~ん、ヤマちゃんです。明らかに「一杯やる」どころか、すでに20杯くらいにやられております。声をかけて意思疎通を試みると、どうやら昼間から友人と楽しく飲み続けていたようです。
私は、精いっぱい生きているヤマちゃんを連れて船に乗り込み、本人が振り絞った意向を元に、甲板デッキで一緒に(?)師匠連を待ちました。
横浜に着いて、お酒を片手に乗り込んできた師匠連が「なんだこれ」

続:師匠連とサメの仁義なき戦い
さて、今回の式根島釣行は、前回に引き続き天気に恵まれず、到着した野伏港もびしょ濡れです。

私は、今回はやることが多く、初日は自分の釣りはそこそこにして、師匠連のフカセ釣りの様子を見に行きました。
「どうです、サメいますか?」
※かける言葉がおかしい
「そこにいるよ」
見ると、桟橋の内側の船着き場だというのに、何匹ものサメが足元を旋回しています。
10月の時点では、サメは30mくらい沖に待機して、魚がかかると追いかけてきて獲物を横取りしていたのですが、今回はなんと待ち伏せです。むしろ、なついています。

サメも学習するのだなあ~と感心していると、師匠連は「のった!よーし!!」と、リールを巻き始めました。寄せたところで、足元にサメが待ち構えているのにどうするのかと見物していると、適当な位置で竿を素早く跳ね、獲物を高く抜き上げています。それを見たサメは反転して大口開けてジャンプ。
ザバーン!!
「これは前回よりすごい。どうやって調教したんですか?」
「バカを言いなさいよ」
師匠連は、巧みな竿さばきでサメと接近戦を続けます。さすが凄腕のベテラン釣り師ともなると、胆力・集中力が違います。
前回同様、抜き上げられない大物は、あえなくサメサメパックンチョとなって、見ちゃおれないのですが、良いのか悪いのか、大きいのは、どうせイスズミなので、まあいいかというところなのでしょう。こんな時に大型グレがかかったら泣くに泣けません。
新島から昇る月
2日目は、一日がっつり釣りをすると決めて、早朝7時から野伏港で釣りを始めました。エサ取りや外道をかわし切れず、いまいち釣れないのですが、暑くも寒くもない心地よい気候に、夕まづめを過ぎても帰る気になりません。
やがて、16時半を過ぎ、秋の短い日がすっかり落ちて、夜になりました。まだ17時くらいだというのに、月のない夜の暗さに驚きつつ、クーラーボックスに座って釣り糸を垂らしていると、ふいに強い光が正面から射しこんできました。ちょうど新島の向こうから、大きな(ほぼ)満月が昇り始めたのです。

それからは、形容しがたい幻想的な光景を眺めることができました。新島から昇る月が、式根の海にムーンロードを描きながら高度を上げるにつれ、闇深かった夜空を、皓皓(こうこう)と照らし、明るさを取り戻していくのです。「月の前の灯火」というけれど、確かに、これなら月明かりで本が読めるのがわかります。私は、すっかり釣りを忘れて見入ってしまいました。




月光を浴びた野伏港は穏やかで、私は隣にたたずむアオサギのアオちゃんに釣ったアカマツカサを放りながら過ごし、気が付けば20時を回っていました。


その頃、ひだぶんの女将さんが様子を見に来ました。連絡をしておいたものの、心配をかけたのかもしれません。
私は悪びれずに「すごくいい夜ですよ。新島から月が上がったんです」と報告すると、女将さんも、「ほんと!すごく明るい。気温もちょうどいいですね。おかげでいい月が見えました」と応じました。
女将さんは、ノンアルコールビールを2本持ってきていました。そして、1本を私に渡してから、もう1本を開栓し、海に「ノンアルコールでごめんね~」と語りかけて注ぎました。
「お酒が大好きな友達だったの」
この日を境に、式根島に西ん風が吹き、季節は激しく海が荒れる島の冬に変わったのでした。
新島から昇る月見チャレンジについて
さて、新島から昇る月ですが、条件が揃えば、同じ光景が見られるかと思います。
この日(2024年11月17日)の月の出は17時23分でした。月齢は15.6で、十六夜の満月翌日の「立待月」です。確かに、日の入りの夕焼けが消えて「夜」になった後、一息ついて上がってくるので、立って待っていても疲れないでしょう。
[参考]2024年11月17日の月の出情報
・大潮 ・日の入り16:33
月の出 | 方位 | 高度 | 月齢 |
---|---|---|---|
17:23 | 55.8 | 79.6 | 15.6 |
これを考え合わせると、2025年の場合は、立待月より、さらに月が欠ける居待月の11月7日に似たような光景が期待されるのではないでしょうか。前々日にあたる5日が一年で最も月と地球の距離が近くなり、月が大きく見えるスーパームーンなので、さらに素晴らしいかもしれません。
[参考]2025年11月07日の月の出情報
・大潮 ・日の入り16:40
月の出 | 方位 | 高度 | 月齢 |
---|---|---|---|
17:45 | 56.3 | 79.1 | 16.6 |
新島越しの月の出を見る条件は以下となります。興味がある方は、ぜひ挑戦してみてください。私は見る価値があると思います。
- 角度的に新島から月が上がる時期
- 日の入りから月の出に30分以上の時差がある日
- 満月に近い(月の出時刻的に立待月か居待月)
- 晴天
思い出ギャラリー


今回釣った魚
イスズミ、イシガキフグ、ベラ、ソウシハギ、キタマクラ、アカマツカサ、アカエソ ユカタハタ アオムロ アカハタ
↑黄色は食べやすく美味しい魚(当社比)
今回のお料理(2泊分)




調理のポイント
[持参したもの]
・きのこ ・鴨肉 ・レモン ・ピンクペッパー ・ハーブ類 ・小分けした調味料など
[現地調達]
式根鯛平君(養殖真鯛)、厚揚げ、鶏肉、たまご、冷凍ブロッコリー、玉子、人参、玉ねぎ、あめりか芋、きのこ、ねぎ、レモングラス(ひだぶん生産)
[工夫とポイント]
・初日は釣れなくても食べられる材料を用意
・式根鯛平君は式根島養殖場から取り寄せたので釣れなくても気楽です
・ひだぶんのダッチオーブンをレンタルして、肉や野菜を一気に豪華料理に
・松ケ下雅湯で、たまご1パックを温泉玉子にすると便利
よりぬきレシピ
今回はほとんど、アシストメニューを利用したので、こちらをご覧ください
書いた人

こんにちは。私は、「自分で釣った魚で料理を作って、美味しいお酒を飲むため」に式根島に通っています。この「今宵もしきねでバエパッチョ」が式根で釣りをやってみるきっかけになったり、自炊民の多少の参考になれば幸いです。