
昔、まだ集魚灯としてアセチレンランプを使っていた頃のことです。
式根島のある漁師さんが、イカを釣っていました。イカは光に集まる性質があるので、夜に灯をつけておびき寄せて釣るのです。 月のない夜の海で、次々と上がるイカ。脈打つように色を変えるイカはライトに照らされてとても綺麗で、美味しそうで、漁師さんは夢中でした。

その最中に彼はふと異変を感じました。
…頭に。
すぐ上で何か変な気配がします。
ほわっ、ほわっ、ほわっ、と妙な風が頭をなでています。
驚いて動作を止めると風は止み、聞こえるのはただ船端を洗う波の音とアセチレンランプの燃える音のみ。
しかしまたしばらくすると、始まるのです。
ほわっ、ほわっ、ほわっ。
ほわっ、ほわっ、ほわっ。
「さて恐ろしいことだ、俺は何かに取っ憑かれたな…?」
漁師さんはそう思いました。
でも何に?
見るのは怖い、しかし見ないのも怖い。
葛藤の末、漁師さんは勇気を奮い起こして見上げました!
と、そこにいたのは一羽のカモメ。
ほわっ、ほわっ、ほわっ、というのは、漁師さんの頭に止まろうとしていたカモメの羽ばたきだったのです。
この漁師さんの娘さんに語ってもらって大笑いした私でしたが、闇夜に式根島の海岸に出ていると、その漁師さんの気持ちは分かる気がします。 今頭上で「ほわっ、ほわっ」が来たら…、私なら悲鳴をあげてしまうかもしれません!
